オーストラリア在住、就労支援スタッフ「片耳難聴は “特別” なことじゃない」

2021年1月11日 − Written by 麻野 美和

真珠腫性中耳炎による片耳難聴のあやさん。

10年前にオーストラリアに移住され、
現在は、両耳難聴を持つ方の就労サポートをしています。

お話を伺った方のプロフィール

  • 名前:あや(仮名)
  • 年代/性別:30代/女性
  • 仕事:
    (日本)理学療法士
    (オーストラリア)介護→就労支援
  • 聴力の程度:
    左耳は正常聴力
    右耳は、高~中音域が軽度難聴、低音域が高度難聴
  • 原因/時期:
    幼稚園の頃に中耳炎になり、
    高校生で真珠腫性中耳炎と診断
  • 治療:
    幼稚園の頃に中耳炎の治療
    (チューブ留置術・アデノイド切除術)
  • 補聴機器の使用:作ったがほとんど使用なし
  • めまいや耳鳴り:特になし
  • 自己開示の有無:あまりしてこなかった
  • 自身の受けとめ:特別な感じはない

目次

1. 海外移住、現地のパートナーと結婚
「聞こえないにせよ、英語が分からないにせよ、恥ずかしがらず質問する」

2. 聴覚障害者の就労支援スタッフとして働いて
「聞こえる人・聞こえない人どっちでもいい」

3. プライベートや子どもの頃のこと
「そんなに優しくしなくても大丈夫」

1. 海外移住、現地のパートナーと結婚

「聞こえないにせよ、英語が分からないにせよ、恥ずかしがらず質問する」

10年ほど前に、オーストラリアに移住したあやさん。
現在は、両耳難聴の方の就労支援のお仕事もされ、手話も使われているんですよね。3つも言語を習得されて、すごいなと思います。

英語は、中学生くらいから興味があって。

言語は練習して身に着けるしかないものですけど、もともと好きだったからハードルは高くなかったです。

中には、リスニングが苦手と感じる片耳難聴を持つ人もいるようです。例えば、難聴側の聴力が残っているけれど音が歪んで聞こえたり(感音性難聴)、聞こえる聴力が低音高音域で違って聞きづらいなど。

私は、あまり苦手な感じはなかったかもしれません。

無声子音(ch, f, k, p, s, sh, t, and,th. 例えば「things」)が聞こえづらいと発音として真似しづらい印象がありますが、特別な勉強方法をした訳ではなく、学校で習ったことをやってきました。

 両耳が聞こえる人も、音源の音質自体が悪かったり、空間によっては音の反響が大きく聞きにくいと感じる場合もあるかと思いますが。

 特に片耳難聴の学生さんの中には、賑やかになりがちな会話型の授業で、かつ知らない言語を使うとなると、オーラルコミュニケーションの時間が苦手と感じる人もいるかもしれませんね。


  • 【Tips】
  • 授業や英語試験のリスニングが聞こえにくいとき、席を聞こえやすい位置に変更したり必要な配慮を申し出ることができる(詳細:「合理的配慮」

そもそもオーストラリアに行かれたのは、今のパートナーさんを追いかけてだったんですよね。

はい(笑)実は、それまで海外に出たことはなくて初めての海外だったんですけど。そのまま現地で家庭を持って、結婚しました。

チャレンジングですね!旅行程度であれば、聞こえ以前に、英語もカタコトだと相手も身振り手振りしてくれて、通じてないなりに何とかっていう感じだと思うんです。

そうですね。

でも、実際に現地で生活するとなると、英語が話せる前提になってきますよね。聞こえにくい、英語も心もとないだと、二重の壁は感じませんでしたか?

聞こえという点で、そこまで大きな壁はなかったかもしれないです。
小さい時から片耳難聴なので、全て聞き取れなくても文脈から推測するのにも慣れてますし。

ただやはり移住して初めの頃は、大変でした。当時は、中学高校の知識を組み合わせて喋るくらいの英語レベルでしたし、仕事も新しく介護の職場に入ったので。初めてが重なるタイミングは大変だなとは思います。

聞こえないにせよ、英語が分からないにせよ、恥ずかしがらずに質問するようにしていましたね。

聞き返したり質問するのに、ためらいはありませんか?

抵抗感はあまりなかったですね。とにかく生活していかなければならなかったので、貪欲だったんだと思います。

相手が本当に言いたい事があれば何度も言ってくれるし、聞こえなさや言語の壁については、ちょっとの勇気と興味があればなんとかなると個人的には思っています。

2. 聴覚障害者の就労支援スタッフとして働いて

「聞こえる・聞こえないは大きな問題じゃない」

オーストラリア手話は、どうやって勉強されたんですか?

こちらで転職して、就労支援の仕事に就いてからです。両耳難聴・手話を使う方のサポートをする団体だったので、職員に教わったり勉強クラスに行くようになりました。

転職先の選択には、ご自身の片耳難聴の影響はあったんでしょうか。

今の聴覚障害者の就労支援の仕事も、片耳難聴がきっかけでという訳ではないんです。

移住後、新たに福祉関係の勉強をして、その実習で色んな障害を持つ方のお手伝いをしました。たまたま聴覚障害を持つ方をサポートする団体に行き、就職するに至ります。

「聞こえ」という共通点がきっかけで、という訳ではなかったんですね。

はい。ただ職場は、スタッフもクライアントも両耳難聴の方が多く、スピーチリーディング(読話)と手話、聞き返すのも皆にとって当たり前の環境。聞こえる人でも聞こえない人でも別にどっちでもいい、大きな問題じゃないといった雰囲気です。

具体的に、現在のお仕事内容を教えてください。

両耳難聴の方と企業など就労先を繋ぐ役割の機関です。日本でいう障害者雇用の制度がオーストラリアにもあるのですが、こちらでも両耳が聞こえない人への就職口がまだまだ狭いので…。

片耳が聞こえるから電話もできますし、手話もできるから、利用者と支援者のアポイントメントを取ったり、仲介するような業務をしています。

働いてみてどうですか。

私が出会ってきた両耳難聴の方は、言いたい事をしっかり言いますし、曲がってる事を違うよって言う。自分を守るべき所は守る印象があるんですね。

「あ、こういうこと言っていいんだ」、「言っていくのもありなんだな」って。主張する事は勉強になりました。

もちろん一括りにはできなくて、静かな人は静かだとは思います。育ってきた環境も本人のコンディションもありますから。

でも、主張する人の背景には、聞こえなくて困る場面が多かったり、分かってほしいからという気持ち、理解されず困った経験が積み重なってのことだと思うんです。

そうですね。

そういう点でも、私は聞こえる側・聞こえない側のどっちにも付けないなと感じます。完全に聞こえはしないけど、聞こえない訳じゃない。常に生活上で情報が入らなくて困る訳じゃない。立ち位置は中途半端。

片耳難聴という聞こえにくさの共通点はあったとしても、サポートする中で100%両耳難聴の人に寄り添えるのか?といったら、難しいです。でも、同じじゃないからこそ、出来ることもあるのかなと思っています。


  • 手話:
  • 両耳が聞こえない・聞こえにくい人を中心として使用する視覚言語。
  • 両耳難聴でも後天性の場合は、手話を学習していない人も多い。
  • 日本の使用者は、約8万人(1,500人に1人)という報告がある(厚生労働省

3.プライベートや子どもの頃のこと

「そんなに優しくしなくても大丈夫」

ご家庭のことなども伺わせてください。オーストラリアで現地のパートナーと結婚し、お子さんを育てられているとのこと。家族との間では、片耳難聴についてどうされていますか。

夫は、気を遣わないですね(笑) 私が言えば、席を変わってくれたりすると思うんですけど、まだ子どもも小さく、それどころじゃない感じです。

子どもには「ママは、こっちの耳聞こえないからね。(聞こえる)こっちから話してね」と言ってます。

まだ小さいので、「そうなんだ」っていうくらいの反応ですけど。
そういう人もいるんだよ、って知るきっかけにはなるかなと。

プライベートでも、特に片耳難聴のことは伝えていないとのことでした。

はい。私にとっては子どもの頃から片耳難聴が当たり前だったので、そもそも言う発想がなかったんです。

日本でも、理学療法士としての病院勤務をしていたのですが、患者さんと一対一の場面が多くて。自分で立ち位置を聞こえる側にしたり、身体の向きを変えたりしていたので、困り感はそんなになく、周りの人に言う必要性を感じなかったんです。

それに、特別視もしてほしくないんですよ。

特別視、ってどんな感覚なんでしょうか。

子どもの時から片耳難聴なので「そんなに優しくしなくても大丈夫だし。これで生きてきたし」って。

秘密にしたい訳でもないけど、自分から言うのも何かなぁって。周りの人の優しさはありがたいですけど、気を遣わせちゃうのが嫌です。

子どもの頃は、母が一番心配していて、学校に伝えたのも母親で「席順を前にしてもらったら?」とか。ちょっと鬱陶しさもあったんです。

幼稚園の頃に真珠腫性中耳炎という病気になられて、手術の経験もあって…。
近くで見ていた親御さんからすると、とても大きな出来事だったんでしょうね、きっと。

そうですね。中耳炎の手術をしたのは30年くらい前なので、幼稚園を休んで3週間くらい入院しました。

小さかったし、痛いのは嫌でウジウジしていて、耳鼻科に行く度に泣いていて…。
母親はずっとそれを見てきたから、可哀そうっていうのもあったかもしれないです。

そういった経験が「片耳難聴を開示すると、特別視されるかもしれない…」みたいな違和感、今の「過剰に反応されたくない」っていう気持ちに繋がっているのかなぁとも思いました。

そういうのもあるかもしれません。

ママ友にも、特に開示はしてないですね。
偶然、補聴器を使っていたときに会って、開示することになったこともあるんですけど。

相手「ええええ?! あやさん、補聴器つけてるの?!」
私「そうそう、補聴器してるんだよ。こっちの側、聞こえないんだよねー」

と、世間話みたいな雰囲気で。詳細に病気の説明もしていないです。

コミュニケーションが密な人間関係もあるかと思います。聞こえにくさで大変さは感じないですか。

あまり感じないですね。
国柄なのか、もともと多様な人種・移民もいる多文化社会、個人主義的な社会なので結構さっぱりしていますし。

それに正直、ママ友同士の会話って極端に言えば命には関わらない話だし、まあいいかなと思ってるのもあります。

あやさんとお話していると、割とカラっとした印象を受けます。耳のこと以外も性格的にカラッとタイプですか。

そうかもしれないですね。恋愛でどん底を体験したこともありますけど(笑)基本的には、何でもあんまり悩まない。

なんにしても、最後は自分で乗り越えるしかないじゃないですか。人に助けてと言ったとしても、結局自分のことなので自分で解決するしかない。

ベースに「人は本来、自分の事しかわからないし、できない」って価値観があるから、片耳難聴のことも、人に理解して貰いたいと求めないのかもしれないですね。

自分自身で乗り越えたぞという実感は、自分のために大切な気がします。

最後に、あやさんにとって片耳難聴を一言で表現するとしたらどんなものですか。

特別じゃない。私にとっては普通のことで、今までこれで生きてきた。だから「片耳難聴です」って言っても周りの人も気負わないで、構えないで欲しいなと私は思っています。

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