インカムを使うブライダル業界で「やるだけやってみよう、と思って」

2020年3月31日 − Written by 麻野 美和

お話を伺った方のプロフィール

  • 仮名:かなさん
  • 年齢/性別:20代、女性
  • 仕事:ブライダル業界
  • 聴力:片耳はほぼ聞こえていない
  • 原因:5歳の頃、理由ははっきりしない
  • その他の症状:なし
  • 補聴器の使用:なし
  • 周りの人への開示:家族以外には伝えていない
  • 片耳難聴の受けとめ:ハンデとはあまり思っていない

1. インカムを使う仕事だったと後から気づく

ブライダル業界でウェディングプランナーとして働くかなさんにお話しを伺います。まず、仕事内容やプランナーになったきっかけについて教えてください。

専門学校卒業後に結婚式場で働き始めました。今年で5年目です。プランナーとして結婚式の企画から式当日の運営まで、全体に携わっています。
普段いる部署は10人未満の小じんまりした感じですが、式の当日は他の持ち場のスタッフも加わるので色んな人と関わりがあります。

専門学校もブライダル系の学校に?

そうですね。昔から考えていた訳ではないんですけど、計画を立てたり何かを作り上げることは好きで。自分にしかできない、集中して取り組めることを探して選びました。

進路選択のときには、インカムをつけるお仕事というのは気になりませんでしたか?片耳難聴的には..

実は「インカム(ヘッドセット無線機器)」をつけて仕事をするって、専門学校入学後に友達に言われて初めて気付いたんです..。挙式中は、インカムをつけて動きながらスタッフ間でやりとりをするのに使うのに、片耳難聴がネックになる..と目指した後に気付くことになりました。

聞こえる側にインカムをつけることになる、つまり聞こえる側はインカムで塞がる。周りの音は聞こえにくくなるということですよね。

そうですね。専門学校のときに実習もありましたが、インカムをつける機会があまりなく困りませんでした。バイトも飲食系でしてましたが、なんとかなっていたので。

でも、いざ就職するとなって迷いました。大変だろうな、と。ただ、親に専門学校まで行かせてもらった訳だから申し訳もなくて。反抗期には耳のことで八つ当たりのようにした時期もあったけど。
これまでも色んなことをやってきたように、まずは「やるだけやってみよう」と思いました。


  • 骨導タイプのインカムもある。鼓膜などを経由する気導の経路ではなく、骨を振動させて内耳まで直接音を届ける仕組み。耳穴を塞がずにすむため、周りの音も入る。(詳細「耳・聞こえの仕組み」)
インカムをつける女性

2. フツウに生きたい

就職活動のときには、片耳難聴のことは伝える・伝えない、どうしていましたか?

伝えていません。そもそも、家族以外には片耳が聞こえないことを言っていません。

何か理由があるんでしょうか。

あんまり深く考えたことがないのですが。フツウに生きたい、って思いですかね。もし「聞こえないから仕事できないよね」なんて決めつけで思われたらいやだし、出来ない言い訳にもしたくないし、変に心配されたくない気持ちもあります。

自分でもよく覚えていないのですが、聞こえなくなったのは5歳の頃。熱のせいだったそうです。それ以来ずっと人に言わずにやって来たので今更感もあります。もし周りの人に気付かれたときには認めると思いますが..。

結婚式というお客さんにとっては大事な節目だから、そのためにできれば自分もパーフェクトな状態で仕事をしてあげたいとも思うけれど..。

言わないとなると、席の位置を聞こえるポジションにしたいときなどがあると思うのですが、どうしてますか?

性格的に積極的だったり賑やかなタイプなので、例えば、お店に入るときも自分が一番先に入って席を取っちゃうとか(笑)、人に移動してもらう時には「こっちがいい!」とかって軽い感じで言っています。
友達や恋人と車に乗っていて、難聴側に相手が来る時もありますよね。それで聞こえない場合は、唄ってノリと勢いでどうにかしたりしちゃったり(笑)

なるほど。片耳難聴ということは告げずにいながらも、求める対応は伝えたり、自分の行動でカバーしてるってことですね。

そうですね。インカムしてて聞こえない側から話かけられた時には、一旦インカムを外して対応してます。インカム自体をしっかりつけると外の音を拾えなくなるので、緩めにつけておいたり。

あと、電話対応のときに誰かが「これも言って」と何やら言ってきても、聞こえる耳は受話器で塞がっている訳で聞こえないじゃないですか。だから「書いて」(ジェスチャーをしながら)とお願いしてますね。

結婚式の会場

3. 大変なことはなくならなくても

働き始めて5年目。実際にここまで働いてきて、どうですか?

どの仕事もそうだとは思うけど、働き初めた頃が大変でした。そもそも業務・職場のことも右も左も分からない中で、聞こえにくいというのは。

慣れてくると少しずつ、言われることを予測できるようになって楽になりました。今は中堅の立場なので、周りの人に「今なんて言ったけ?」と新人の頃よりも聞き返しやすくもなってきました。

ポジションや経験年数とともに出来ることも増えるし、周りの人との関係性も変わるので働きやすくなるかも知れませんね。

インカムをつけると言っても、私は結婚式がある時だけインカムをつける会社に入ったので、毎日つけている訳ではないんです。そのことを知らずして偶然にも選んだ就職先だったのですが、毎日インカムを使うところに比べると使用頻度が少ないのは助かっています。

働くところの環境・条件も大事かもしれませんね。

それでもやはり、挙式でインカムを使う日は、インカム越しにも周りのBGMなど音が沢山あるので聞こえる耳で聞くのも疲れます。残された難聴側の耳に普通に話しかけられても対応しないといけないから周りをよく見たり、神経も使います。今のところ大きなミスはないはずだけど、聞こえなかったらその場ではなんとなく曖昧に誤摩化して、後から聞き直すことも正直あります。
逆に、インカムから音が入らない時は、インカムの遮音性も高いのでほぼ無音の世界で。

困ることもあると、辞めたくなったり今後も仕事を続けるか迷いませんでしたか。

「辞めたい辞めたい病(笑)」にはなりますよ。聞こえないことのせいにしたくなることもある。聞こえなくて傷ついたり悲しくなることもありました。

でも、それをずっと考え続けても仕方ないし、くよくよしててもハッピーじゃないしって思って。忘れようと思って忘れられるものでもないので、飲みに行ったり一人で泣いたりしてストレスを発散しながら続けています。

仕事という責任もある中で、そうして頑張って来られたんですね。

自分はやっているけれど、片耳難聴的にはインカムをつけながら仕事をするのは大変さはあるので、どうしてもやりたい仕事じゃなければ私はお薦めはしないです(笑)

だけど、仕事もそれ以外のどんなことも、諦める必要はないとも思っています。大変なことはなくならなくても、工夫したり頑張ることは出来るはずだと思ってやっています。

夕焼けをバックに飛び跳ねる女性

著者紹介