きこいろ代表スペシャルインタビュー「片耳難聴を武器に」言語聴覚士として働く。朝ドラ、レクチャーエピソード

2020年6月13日 − Written by きこいろ編集部

ヒロインが片耳難聴を持つ、NHK2018年朝ドラ『半分、青い。』。
片耳難聴がTVに登場し、注目していた方もいるのではないでしょうか。

きこいろの代表でもある岡野由実さんは、このドラマの片耳難聴についてレクチャーを行った経験があります。ご自身も、左耳が聞こえない当事者で、片耳難聴の研究も行う言語聴覚士です。

きこいろが団体として活動を始めて半年が経ち、改めて代表としての活動への思い、ドラマ監修やお仕事のこと、ご自身の片耳難聴の体験について聞きました。(2020年2月インタビュー実施)

左:インタビューアー前川、右:岡野(岡野の勤務先の大学にて)

『半分、青い』レクチャーを経験して

早速ですが、『半分、青い。』でレクチャーをすることになった経緯を教えてください。

実は、NHKから依頼をいただいたわけではなく、自分から売り込みました(笑)

ネットニュースで、企画を知ったんです。それで、当事者でもあり、片耳難聴の調査をしてきたこと、言語聴覚士として実際に片耳難聴の人をサポートする機会もある立場に自分はいて、「これは何とかしてでも関わりたい」ってすごく強く思ったんです。

で、翌日には、私の書いた論文と思いのたけをぶつけた手紙をNHKのプロデューサーさんに郵送しまして。そしたら、熱心なプロデューサーさんで、すぐにメールをくださって話を聞きに来てくださいました。

その後、主演の女優さんたちに「当事者はどういう聞こえ方をしているのか、直接話してほしい」って依頼をいただいて。音響スタッフの方に向けて、聞こえ方や耳鳴りについてお伝えもしました。

たくさんの方に見られるような番組で、片耳難聴が描かれるというのは初めてで。当事者の日常を知るのも初めてだっていう視聴者の方が多かったと思うんです。レクチャーにあたって、こういうことはきちんと伝わってほしいというのはありましたか。

プロデューサーさんとお話したときに強調してお伝えした部分は、「かわいそうな障がい者としては描いてほしくない」っていうようなことで。

というのも、ネットニュースで最初流れたときには「朝ドラ史上初、障がいのあるヒロイン」っていう描かれ方をされていて。片耳難聴っていうものを、かわいそうなものとして扱うのかな、って。でも、片耳難聴をかわいそうなものとして扱ってほしくなかった。そこを意識してお伝えするようにはしたかな、と。

実際のレクチャーはどんな内容だったんでしょうか。

ディレクターさんが中心で話をして、コメントを私に求めるっていう形でレクチャーを進めていただきました。

事前に打ち合わせして「片耳難聴体験グッズ」を作ってみたんですよ。イヤマフ…あるじゃないですか。イヤマフをつけるだけだと音が聞こえちゃうので、耳鳴りの模擬的な音、ザーていうノイズを作って、それを片方の耳に入れて、かつイヤマフを上から被せて、もう片方のイヤマフは耳から浮かすっていう。

そのイヤマフをつけた状態と、付けない状態とで、主人公の鈴愛を演じる二人に着けてもらって、3つの場面を体験してもらいました。まず、隣の人と話してみること。二つ目は、携帯電話を鳴らして音がどこからしたか。三つ目に、輪になって居酒屋で話してるふうに皆でガヤガヤ話すこと。

お二人はどんな反応をされてましたか。

それが、個人差ってあるんだと思うんですけれども…。音がどこから聞こえるかをやったときに、永野芽郁さんは「分かんない」って言って、子役の矢崎由紗ちゃんは「あっち」って正解しちゃったんです(笑)。

こちらの意図とは反して正解しちゃったんですけれども。逆に、「片方が聞こえない状態は同じでも、聞こえ方や感じ方はそれぞれ違いますよね」って分かってもらえたかなって。

逆に(笑)

それから、相手に聞こえない側に座られたときに、耳を傾けるから顔が相手側にどんどん向いていくんですけど、本人は気づいてなくって。「向けてましたよね」って言ったら「え、そうでしたか?」って。無意識のうちにそうなるんだってことを、体験して分かってもらえたかなと。

模擬で体験されたとはいえ、当事者じゃない方、私たち日常もそうだと思うんですけど、伝えるのが難しいじゃないですか。イヤマフ以外で、言葉で語るときに準備はなにかありましたか。

はい。研究活動で、片耳難聴の方へのアンケートやインタビューもやってきたので、そのデータをお示ししたりして。どんな思いを抱えているのかを知ってもらいたいなと。

「すごい構えて障がい者を演じなきゃいけない…」っていうよりも、あ、普通の人じゃんって思ってもらいたかったのもあって。フランクに話す意識はしていました。

イヤマフ

少し話はズレるのですが、私は言語聴覚士の専門学校で講師もしていて、学生に疑似難聴体験をしてもらうんですね。そこでは、片耳だけ耳栓を入れて体験した学生もいて「片耳入れただけでもこんなに聞こえなくなるのか」ってフィードバックもあるんです。

今まで両耳聞こえていた人が片耳だけ聞こえなくなるのは、生活する上で結構聞こえにくいと感じる人もいるんだなって。自分は片耳で聞くのに慣れちゃってこれが当たり前なので、ああそうなんだ、って思わされた経験もあります。

ドラマのスタッフへのレクチャーは、同じように進められたのでしょうか。

別日に、音響の方から実際に話を聞きたいと呼ばれて行かせていただきました。

音響の方たちが気になっていたところは、耳鳴りの音の表現で。どのように演出したらいいのかと。

私が聞こえている耳鳴りの音は、蝉の音と冷蔵庫の音が混ざったような音がするんですね(笑)それをお伝えしたら、ドラマでは「ザーッ」という海の波音のように表現されていて、「ああ、なるほど」って思いました。

レクチャーを2回された感触はいかがでしたか。

ドラマを作るって、本当にたくさんの人が関わって、きちっと調べてやるんだなって。私が書いた論文も、スタッフの方たちは全部読んでくださったり。色々と知りたいっていう視点で、聞いてくださったのが嬉しかったです。

聞こえ方以外に何か聞かれたことはありましたか。

一番は、どういうふうに感じているのか、思いとか。そこをないがしろにしたくないと言ってくださって。全員に当てはまるようなドラマは作れないとは思うけれども、少しでも当事者の方たちの共感を持ってもらえるドラマを作りたいという思いを作り手の方たちが持っていたのはすごく嬉しかったです。

代表岡野

「半分、青い。」を見て

そうして出来上がったドラマを見て、印象的だったことや感想はありますか。

そうですね…。タイトルが『半分、青い。』で、コンセプトになったのが、傘を差していて、片方聞こえないから、半分だけ晴れてるみたいって主演の子が表現していたんですけれども、「私、それ思ったことないな」と思ったのがインパクト大きかったです(笑)。同じ片方聞こえないっていう体験をしていても、感じ方って本当にさまざまなんだな、ってすごく思いました。

気に入っているセリフは、第1回の放送の片方聞こえない、「それをどう感じるかは私次第」っていうセリフです。片方聞こえないっていう状態を自分の長所っていうか…自分の一部として捉えるのか、欠点として捉えるのか、捉え方次第で生活って変わっていくのかなっていうふうには思うので、好きでなセリフでしたね。

ドラマを通じて共感したことはありましたか。

共感したのは、佐藤健さん演じる律が鈴愛にプロポーズをするちょっと前のシーン。「いつも僕の左側には鈴愛がいた」って言うシーンがあったんですが、片耳に難聴があると、ポジションってすごく大事で、自分の聞こえる側に誰かがいてくれると安心するっていうのがあると思うんです。だから、「律の左側にいつも鈴愛がいる」その表現は、とても共感できる部分だったなと思います。

ドラマに関わってみて、どういった感想を持たれましたか。

その後、片耳難聴のレクチャーをしてほしい、話を聞きたいっていう講演をさせていただく機会が増えまして。ドラマは、片耳難聴が注目されるきっかけにはすごくなったのかなって思います。

世間的にも、“難聴”っていうと全く聞こえなくって、手話で会話をして、っていうイメージが強いかと思うんです。でも、「耳って二つあるから、片方だけ聞こえなくなることってあるんだよ」と知ってもらう機会になったかなって思います。

「自身の突発性難聴について」

著者紹介