片耳難聴と読話
聞こえづらいとき、無意識に相手の口元を見るという方もいるかもしれません。
口元を見る効果はどれほどあるのでしょうか?
筆者は、言語聴覚士を目指す学生への講義の導入で、「両耳に耳栓を入れて言葉の聞き取りの模擬検査」をやってみています。
過去4年間の計125名の学生(両耳が聞こえる学生に、両耳に耳栓を入れて模擬難聴状態にて検査)では、口元を隠すと57.0%、口元を見せると73.7%という結果でした。
両耳聞こえに問題がない人でも、聞き取りづらい場面においては、口元を見て話すとことばの理解が向上するという効果があります。
相手の口の動きが読み取れる能力を身に着けることができると便利だなと思いませんか?
しかし、日本語の基本的な口の形は以下の6種類しかなく、口の動きだけで話を理解することはまず無理です。

読話とは
「読話(どくわ)」とは、話し手の口の動き、表情、身振り、会話場面の状況を視覚的に読み取ることに加え、前後の文脈、話し手との関係などをヒントに推測して話の内容を理解する方法です。
口の動きだけでなく、前後の文脈や相手との共通の話題などから推測して話を理解する読話の力は、とても個人差が大きいと言われています。
では、片耳難聴のある人の読話の能力はどうなのでしょうか?
子どものころから片耳難聴のある4名の方に、唇の動きだけで単語が理解できるのかテストをしてもらいました1)。

結果、片耳難聴を持つ人の読話能力は個人差が大きく、両耳が聞こえる人の平均と比較して差はみられませんでした。同じテストを先天性の両耳が難聴の人にやってもらったところ、片耳が難聴の人よりも良好な結果となりました。
さらに、普段どれくらい読話を使用しているかインタビューしたところ、最も読話成績の良かったAさんは意識的に口元を見るようにしており、最も成績の悪かったDさんは全く口元を見ることはしていないようです。
読話成績には普段から、意識的に相手の口元を見る習慣が関係しているかもしれません。しかし、Bさんは無意識に口を見ているかもしれない、ということで、結局のところ個人差が大きいと言えるかと思います。
聞こえにくいとき、少し意識して相手の口元を見てみると、話が分かりやすくなることもあるかもしれません。
ただし、「読話」は口の動きを読むことではなく、前後の文脈や相手との関係や知識などを総合して推測することが重要です。口の動きだけで読み取ろうとすると、かえって頭が混乱するかもしれないので要注意です。

引用文献
- 岡野由実, 廣田栄子, 原島恒夫,他:一側性難聴者の読話の利用および聴こえの自己評価に関する検討.Audiology Japan 56, 91-99(2013)
- 岡野由実,原島恒夫,堅田明義:一側性難聴者の日常生活における聞こえの問題と心理的側面についての調査―ソーシャルネットワーキングサービスを利用して―.Audiology Japan 52, 195-203(2009)
- Giolas, TG., Wark, DJ.: Communication problems associated with unilateral hearing loss. J Speech Hear Disord. 32, 336-343 (1967)
- 岡野由実:一側性難聴による障害の実態と心理的負担感に関する研究.筑波大学大学院人間総合科学研究科 学位審査論文(2017)