片耳難聴の人の脳の働きについて

2020年5月23日 − Written by 山本 桂

片耳難聴があると脳はどのように働いているのでしょうか? 自分では見えないからこそ気になるところです。
片耳難聴と脳については、まだまだ分からないことが多く、世界中での研究されています。その最新の研究動向について専門的に研究されている山本Dr.にご紹介頂きました!(岡野)

“音が聞こえた” と認識するためには、耳から音が入り、脳までその音という刺激が伝わらなくてはなりません。
言い換えれば、「音は耳で聞くのではなく、脳で聞いている」のです(詳しくはこちら)。

この記事では、難聴を脳から見てみましょう。

1. 脳の音を聞く場所”の活動に差はない

脳にはそれぞれ役割分担があり、
手を動かす場所・言葉を話す場所・音を聞く場所など働きによって活動する場所が異なります。

もちろん、その場所だけで活動をつかさどっているわけではなく、それぞれの場所で情報交換をして影響を及ぼしあっています。

脳の活動イメージ
脳の活動イメージ
出典:小学館『日本大百科全書(ニッポニカ)』所収の図 「大脳皮質上外側面における各皮質中枢」に一部加筆

今回は“音を聞く”という機能にスポットをあててご紹介します。

音を聞く場所は頭の横、側頭葉(そくとうよう)という場所を中心に存在しています。

その活動を解析するために、音を聞いてもらいながら核磁気共鳴画像法(かくじききょうめいがぞうほう:MRI)撮影を行いました。脳活動には酸素の消費が必要になるという原理を用いて、MRIによって脳の活動を目に見える形にし、片耳難聴の人たちと両方の耳から音が聞こえる人たちとの違いを検討しています。

その結果、両方の耳から音が聞こえる人たちの脳の働きは図1のようになりました。

片耳難聴の人たちにも同じように音を聞いてもらいながらMRI撮影を行ったところ、図2の結果となりました。

MRI撮影結果

白色から赤い部分が音を聞くというための場所です。
色が薄いほど活動量が大きいことを表します(白>黄色>赤)(Journal of Medical and Dental Sciences 64巻号に掲載)。

この脳の働きを比較すると、両方とも同じように“音を聞く”という場所が働きを示していることがわかります。

そして、その活動の大きさに統計学的差がないこともわかりました。

両耳から音が入る場合でも、片耳からしか音が入らない場合でも“音を聞く”という場所は、同じように活動を示していたのです。


2. 片耳難聴では“注意深く聞く”脳が活動している

次に、片耳難聴と両耳が聞こえる人たちでは、どこの脳の働きにどのような差があるのかという検討をしました。

図3のように、音の刺激は、側頭葉(一次聴覚野)に刺激が到達してから、特に意味を持った言葉が入ってきた場合、
同じ側頭葉の中にある難しい言葉や文章を聞き取る場所(二次聴覚野から三次聴覚野まであるといわれている)へと活動を拡げます。
さらには、言語をつかさどる場所である頭の前部分にある前頭葉(ぜんとうよう)などに刺激を伝えます。

耳からの脳内の刺激の流れ
図3:耳からの脳内の刺激の流れ
出典:小学館『日本大百科全書(ニッポニカ)』所収の図 「大脳皮質上外側面における各皮質中枢」に一部加筆

つまり、音を聞く領域である側頭葉からその他の領域への刺激により、感情や認知、思考などの場所が働いており、単に音の刺激により音が聞こえるという単純経路だけでは収まらないのです。

過去の研究から、側頭葉から伝わったその他の場所の活動が“音を聞く”領域の活動の制御をしているとも言われています。

私たちの研究から、両方の耳で聞く人たちと比較して、片耳難聴の人たちは難聴の側によって側頭葉の左右の活動の傾向が異なることがわかっています(Journal of Medical and Dental Sciences 64巻号に掲載)。

さらには、言語を司ったり・頑張って聴こうと注意を向けたりする場所などへの脳の刺激の出し方も異なっている可能性があります。

これらが“聞こえない”ではなく“聞こえづらい”ことと関係しているのかもしれません。

まだまだ脳の働き方や、その他の脳の場所への刺激の出し方は明確になっていないことが多く、様々な報告があります。

研究にあたっては、MRIの撮影では機械の音が大きいため、音を刺激としてMRIを撮影するには課題もあります。

片耳難聴に伴う脳の働きの変化について、これからの研究が期待されています。ご自身の脳の働きに興味のある方、研究にご協力下さる方は、こちらまでお申込みください。

出典

  • Yamamoto, K., Tabei, K., et al.: Brain activity in patients with unilateral sensorineural hearing loss during auditory perception in noisy environments. J Med Dent Sci. 64(1), 19-26 (2017)

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