学校

お話を伺った方のプロフィール

  • 名前:なんち(仮名)
  • 年齢/性別:24歳/男性
  • 所属:医療事務職→転職活動中
  • 聞こえの程度:右がほぼ聞こえない(80dB)
  • 原因:真珠腫性中耳炎
  • 片耳難聴が分かった時期:中耳炎を繰り返し、中学1年で聴力低下
  • 受けとめ:悩むこともある
  • 周りの人への開示:仕事では伝えるときが多い
  • 補聴器などの使用:会議・飲み会の時などに使用
  • 他の症状:なし

1. 子どもの頃は困らなかった

なんちさんは、中耳炎から「真珠腫性中耳炎」になったということでした。まずは、どんな経緯だったかを教えて頂けますか。

小学校3年生くらいに、中耳炎になりました。耳垂れが出てたので、病院に行ったら中耳炎と診断されました。

その頃は、中耳炎というものをよく理解していなかったので、深く考えることはありませんでした。耳垂れが頻繁に出るとか、プールに入れないとか困ったことがあっても、それほど大ごととは感じていませんでした。中耳炎は珍しくない病気なので、親もあまり深刻に感じている様子はありませんでした。

その後、中耳炎が治らなくて、中学1年生の頃に「真珠腫性中耳炎」という病気に移行しました。それで聴力が落ちてきたのですが、そのときもあまり大きなショックも受けませんでしたね。手術もして、良くなるケースもあるようですが僕は改善しなくて、でもそのときはあまり落ち込まなかったです。

ショックを受けなかったというのは、気にならなかったということでしょうか。

当時は、学校という小さなコミュニティの中にいたので、あまり不便がなかったからです。耳が悪くなったという漠然とした不安はあったけど、片耳難聴で何が困るかも良く分かっていなかったので悩むまでに至らなかった感じです。なので、友達や先生にも言っていなくて、特にサポートを受けることもありませんでした。

親とも、その時も今もですが、特に難聴については話すことはないですね。家の中は比較的静かな環境で、あまり困らないので。

手術も経験されていて、大変だったのではと思いますが…。

実は、あまりはっきりとした記憶がなくて。夏休みに手術をするのに、他の人より2日くらい早く休んだのが嫌だったな、というのは覚えています。あとは、「痛いのは嫌だな」とは思いました。でも、そんなに大変と感じる経験ではなかった気がします。

学校生活

中耳炎とは?

中耳炎の種類と主な症状・治療

①急性中耳炎

原因風邪などで、細菌が鼻に繋がっている「耳管じかん」を通り中耳に侵入し、炎症が起こる。
症状耳の痛み、耳だれ、難聴、発熱
治療解熱鎮痛薬・抗菌薬を飲む。重症のときは、鼓膜を切り、膿を出す

<予防のためにできること>

  • なるべく鼻水をすすらず、こまめに鼻をかむ
  • 鼻は、両方同時ではなく、片方ずつ優しくかむ
  • 鼻をかめない乳幼児は、「鼻水吸引器」がある

②慢性中耳炎

原因急性中耳炎が繰り返しや滲出性中耳炎により、炎症が慢性化して鼓膜に穴があく
症状耳だれ、難聴、鼓膜穿孔
治療鼓室こしつ・鼓膜をつくる手術。抗菌薬の内服・投与、鼓室の洗浄

滲出性しんしゅつせい中耳炎

原因耳管が上手く働かない→鼓室の空気圧が調整されない→鼓膜が内側にへこみ、浸出液が溜まる
症状耳が詰まった感じ、難聴、痛みはない。
治療浸出液が多い場合では、鼓膜を切り吸い出す。鼓膜にチューブを入れ、鼓室内の換気ができるようにする(鼓膜チューブ留置)

真珠腫しんじゅしゅ せい中耳炎

原因
(後天性の場合)
耳管が上手く働かない→鼓室の空気圧が調整されない→中耳側に凹んだ鼓膜に耳垢が溜まる→細菌の感染が起こる。
症状耳垂れ、難聴、耳の痛み、悪化すると目眩、ずい膜炎まくえんなど
治療真珠腫を取り除く手術、壊れた 小骨しょうこつの再建手術

好酸球性こうさんきゅうせい中耳炎

原因喘息やアレルギーのある人に起こる。鼓室でアレルギーが起きる→液体が内耳に溜まる
症状難聴は、一般的に両側性。耳閉感、耳鳴り
治療鼓膜を切り、液体を吸引する。必要があれば、鼓膜へのチューブ留置りゅうちやステロイドの注入

2. 問題に直面したのは大学生の頃

子どもの頃は、それほど困ることはなかったんですね。苦労が増えたのは、いつ頃からだったんでしょうか。

人との関わりや、コミュニティが大きくなってきた大学生の頃からです。高校生までの「話を受け身で聞く」といったスタイルから、サークル活動や授業内でのディスカッションなど、皆で話し合うような場面が増えると、聞こえないと困ることが増えました。飲み会など騒がしい場においても、会話が聞き取りにくく困りました。

大学の講義は、「静かだから大丈夫」という人もいるようですが、僕は聞き取りにくかったです。高校までと比べると、教室が大きくなったり、受講する人も多く雑音が気になったからかも知れません。

片耳難聴をほとんどの人に言っていなかったので、聞くことや、合わせて返答することに必死になっていました。家に帰って「聞き取れんかったな」と落ち込んだりしましたね。

周りの人に、片耳難聴を伝えなかったのは、何か理由があったんでしょうか?

親友2~3人に伝えたこともありました。でも、伝えたところで、あまり意味がないかなと思ってました。ただこうして改めて考えると、伝えない理由を「意味がない」と置き換えていた可能性もあった気がします。

実は、「ハンデがある」というマイナスのイメージが自分の中に合って、人に言うのもとても抵抗感があったのかも知れません。片耳難聴であることを受け入れることが出来なかったんでしょうね。

恋人にも言っていなかったですね。例えば、一緒に道路を歩くとき、僕は右耳が聞こえないので、相手には左側にいて貰わないと聞こえない。でも、右側通行の道で左側を歩いてもらうと、彼女が車道側になってしまう。(子どもなど守りたい対象を内側にするように)男性が恋人と歩くときには女性を内側にというのがよくあるかと思うのですが、そのときは彼女に車道側を歩かせてしまうのは、仕方ないと思っていました。どう思われていたかは分からないけど、自分の中では問題視していなくて。「嫌われるから、耳のことを言わない」とまでは思っていなかった気がしますが

道路を歩く

3. 伝えるようになったのは仕事を始めてから

仕事は、病院の医療事務の仕事に就かれ、社会人になってからは片耳難聴のことを伝えるようになったとのこと。そこには、どんな変化があったんでしょうか。

いざ就職が決まってから、仕事も耳のことも全体的に「これから大丈夫だろうか」と徐々に不安になってきたんです。

大学の時には、インカムをつけるアミューズメント系のバイトを含め、いくつか仕事を経験してきましたが、それらは、片耳難聴のことを伝えなくても大きく困ることないものでしたし、仕事先の選択でも片耳難聴を特別に考慮してはいませんでした。

しかし、社会人になり立場も変わり、より一層責任のある仕事をする上では、「片耳が聞こえないと言わないでいるのも良くないのではないか…」と思うようになりました。聞こえないことで誤解を受けたりしたら、結局、苦しむのは自分だなとも。入社後の挨拶直前まで言おうかどうか・どう言おうかと悩みながら、伝えることにしました。

どんな感じで伝えたんですか。

1000人規模の病院でしたが、全員と関わらないので言う必要があったのは、日頃から関わりがある配属部署の方でした。部署は、7人と少人数だったので、自己紹介のときに直接みなさんに言いました。

「なんちです。~~~~~(いろいろ)。中学生の頃に右耳を悪くしたので、聞き返したり、聞こえないときがあるかも知れません。その分、違うところで頑張っていきますので、よろしくお願いします」と。すごく緊張しました。周りの人は、特に気にした様子はなく、普通に拍手をしてもらってその場は終わりました。

その後も、部署を移動したら挨拶のタイミングで言っています。あとは、会議のときに聞こえにくいポジションになってしまったら、隣同士の席で交換して貰うこともあります。いやな顔せず、受け取ってくれる人が多いです。中には覚えてくれて、相手から自然に聞こえやすい耳の側に回ってくれる人もいて、有難いです。

すると、業務上では困り感はそう感じずにやれていましたか?

そうですね。事務の仕事だったので、人と密なコミュケーションがないのは楽でした。

電話対応もありましたが、固定電話ではなく個別の携帯電話が支給される病院だったので、よくある「複数の電話があるオフィスで、どの電話がなっているか分からない」という困りごとはありませんでした。

でも、ちょうど自席の近く、それも聞こえる耳側にプリンターが置いてあって。印刷の音って結構大きいので、それは気になりました。聞こえる側が雑音で潰されてしまうと、ますます聞こえにくくなるので。

なにか工夫していることなどはありましたか?

議事録を自分が取るような会議では、ボイスレコーダーを使っていました。記録するのにも、聞こえなかった場合にも便利なので。使う時も、ボイスレコーダーであれば他の人も普通に使うことがあるものなので、目立ったり不自然な行動でもないし、周りの人に特別に言わずに、机の上に置いてやっています。

事務仕事

4. 周りの人がしてくれる助かること

言わなかった学生時代、言うようになった就職後。プライベートや普段の生活では、どうしていますか。

仲の良い友達には伝えるようなりました。食事の席につくときや電車の座席などで、「右耳が聞こえにくいからこっちに座っていい?」と、席位置を選ばせて貰っていますね。

周りの人からしてもらって助かったエピソードはありますか。

飲食店を選ぶ際、個室のある居酒屋を選んでくれたり、テーブルでも端の席などを確保してもらったりすると、とても嬉しいです。それから、名前を呼んでから会話をしてくれるのも助かりますね。急に話しかけられると音の方向性が分からなかったり、聞き取れないことが多いので。自分に話しかけられてるんだなと分かって、聴く態勢が取れてから話して貰えると、聞き逃しが減って助かります。

言うことへの抵抗感は変わりましたか?

少しずつ薄れてはきました。Twitter等で片耳難聴者が自分以外にも沢山いることを知ったのも大きいです。自分だけが苦しい思いをしているのではないんだな、と。いまは、自身の片耳難聴を受け入れることができていると思っています。

それでもやはり、出来るのならばカミングアウトしたくないな、という気持ちもあります。そんな風に、困りごとや悩み・不安はゼロにはならなくて、もし10点満点で困り感を答えるなら、大学生の頃も昔も7点くらいかも知れません。

よく思うのは、「伝えられた側はどう思うんだろう」ということです。「どう接していいか分からなくて困らないかな」という心配があります。

正直その辺りの心境は自分でもはっきりしていなくて、まだ自分と向き合っている途中です。これまでも変化があったように、これからもまた変わっていく気がしています。

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