片耳難聴が聞こえにくい理由(両耳聴効果について)

Written by 岡野 由実

単純に「半分聞こえない」では言い表しきれない片耳難聴。両耳が聞こえることとの違いはなんでしょうか。
両耳聴の説明を通して、片耳難聴について理解を深めましょう!

1. 両耳加算効果

片耳で聞くよりも両耳で聞く方が3dB音が大きく感じられる現象のこと。

3dBという音の違いはごくわずかな違いですが、両耳聞こえている人に比べ片耳難聴の場合、少し音が小さく聞こえているということになります。

さらに、ギリギリ聞こえるか聞こえないかの小さい音では3dBの違いですが、普段耳にしているような音では6~10dBほど感じ方が違うのではないか、という報告もあります。

このため、両耳では楽に聞き取れる音でも、片耳で聞く場合には一生懸命聞かないと聞き取りにくい、ということもあるかもしれません。

両耳加算効果

2. 頭部陰影効果

両耳が聞こえている人でも、最も聞き取りたい重要な情報は片耳で聞いていると言われています。本当に聞き取りたい情報に集中をするために、頭がバリアとなって、自然と反対側から入ってくる(本当に聞き取りたい情報ではない)音が小さくなります。

このことを、頭部陰影効果(head shadow effect)と言い音が頭をグルッと回っている間に、音が小さくなり、到達するまでに時間がかかり、特に高い周波数の音で10~16dBくらい音が小さくなります。

両耳聞こえる人にとっては、聞き取りたい音に集中するための現象ですが、片耳難聴の場合、聞こえにくい耳の方に入ってきた音が頭をグルッと回っている間に音が小さくなって聞こえる耳に届くため、聞こえにくい耳の方からの情報が入りにくくなってしまいます。

3. 音源定位

耳が頭を挟んで両脇についているおかげで、正面以外の場所から届く音の強さや、到達時間は左右の耳で微妙に異なります。微妙な音の強さや時間の違いを脳で分析して、音がどこから届くのかが分かります

そのように、音がどこからしているのか特定することを音源定位(sound localization)といいます。

片耳難聴の場合、左右の耳から入る音の違いを分析することができないため、音源の定位ができなくなります。

片耳難聴の人でも、音源定位の能力には個人差があります。先ほどの頭部陰影効果(head shadow effect)では、高い周波数の音が頭をクルッと回っている間に小さくなりやすいため、片耳難聴の場合でも、高い周波数の音がよく聞こえている人では、音源定位ができる人もいるのでは、という報告もあります。

音源定位

4. カクテルパーティー効果

両耳で聞き取ることにより、いくつもの音を空間的に別々に聞き分けることができ、特定の音に選択的に注意を向けることができます。

このため、ザワザワとした空間でも、特定の人との会話音を選択的に聞き取ることができるようになります。この効果を、カクテルパーティー効果(cocktail-party effect)と言います。

同じような効果で、左右の耳から入ってきた音情報を脳で合成して、その中から雑音を取り除く機能を、両耳スケルチ(binaural squelch)といいます。

カクテルパーティー効果

片耳難聴では、このカクテルパーティー効果や両耳スケルチの効果が得られないため、雑音の中で聞き取りが難しくなります。

5. 先行音効果(precedence effect)

違う方向から2つの音が連続して聞こえてくるときに、この2つの音の間隔が5ミリ秒以下であれば1つの音として聞こえ、聞こえてくる方向は先に音がした方向によって決まるという現象のこと。

この効果で音を知覚するためには、両耳での聞こえが必要であると言われています。

通常の場面では、スピーカーなどから出てきた音と部屋の天井や壁に反射した音が、1つの音となって聞き取ることができ、反射音を気にせずに済むわけです。

しかし、片耳難聴の場合、この効果が得られないために、音が反響する環境では聞き取りづらくなってしまいます。

6. 両耳冗長性

片方の耳で聞き落とした音を、もう片方の耳から入ってきた情報を手がかりとして補完する効果のこと。

左右の耳が別々に機能しており、左右の耳に入ってきた色々な音情報を左右の耳で音情報を補い合っています。

片耳難聴の場合、1つの耳ですべての情報を得なければならないので、 聞き落としてしまう可能性が高くなります。

両耳冗長性

まとめ 

両耳を使えるということは、「より正確に・明瞭に聞くこと」を助けてくれる様々な効果があることを紹介しました。両耳で聞く効果が得られない片耳難聴が、様々な場面で聞こえにくいのは、このような理由があったんですね。

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