難聴をどう感じるかや、どんな配慮を希望するかなどは、人それぞれです。
お子さんであれば、席の位置を聞こえる側に配慮して欲しい子もいれば、逆に気を遣われたくないと思う子もいます。
家族が工夫できることを知り、お子さんの様子を見ながら、そして本人と相談しながら、必要なサポートをしましょう。
以下の記事の内容は、リーフレットにもまとめています。
こちらもご活用ください。(ダウンロード/リンクフリー)。
1. 聞こえ方に配慮した関わり方のヒント
片耳が聞こえにくいことによって困る場面は3つあると言われています。
- 聞こえにくい方から話しかけられると分かりにくい
- 騒がしい場面では聞き取りにくい
- どこから声がするのか分からない
片耳が聞こえにくいことによる聞こえの特徴を踏まえて、片耳難聴のあるお子さんには以下のように関わると良いでしょう。
(1)聞こえる側から話しかける
普段の生活の中では、正面から自然に話しかけましょう。
ただ、横並びで話すようなときには、聞こえる方の耳の側から話しかけます。
例えば、普段の食卓の並び位置。
テレビや換気扇の近くなど、音がする方に聞こえる耳が向いていないでしょうか?
できれば、聞こえる耳は家族と会話をしやすい方に向いている席にすると良いかも知れません。
他にも、電車や飛行機の席、並んで歩くとき、レストランなどの席の場面でも同様です。
そのときに、「○○ちゃん、こっち側は聞きにくいから、ママ(パパ)はこっちに座るね」といったように、自然な会話の中で片耳難聴のことを話題に出していきましょう。
後の項目で述べるように、本人がのちのち難聴への正しい認識を持つために役に立ちます。
(2)家庭の中の雑音を減らす
片耳に難聴があると、騒がしい場面で聞き取りにくくなります。
特に、小さなお子さんでは、大人よりも雑音の中での聞き取りが低下することが分かっています1)。
大人であれば、聞き取れなかった言葉も前後の文脈で推測することができますが、言語発達途上の子どもであれば、なかなか推測することが難しいためと考えられています。
また、雑音の中での聞き取りは、意識を集中させるため疲れやすいこともあります。
なるべく聞き取りやすい環境にするために、話をするときは雑音を減らしてあげられると良いでしょう。
家庭の中の雑音を減らすヒント
- お子さんと話すときは、テレビや音楽を消す。
- 料理や掃除などをしながら話しかけず、いったん手を留めてから顔を見て話す。
- 屋外の騒音が入るようであれば、窓を閉める。
- 絨毯敷きにしたり、厚手のカーテンをつけることで、音の反響を軽減する。
- 食事中に会話をするときは、テレビや音楽はつけない。
- お子さんがテレビを見ているときには、なるべく静かな環境を作る(食器洗いや換気扇の音などを極力出さない)。
- 隣の部屋から話しかけず、近くから話しかける。
(3)遠くから声をかけるときには身振りをつける
片方の耳が聞こえにくいと、どこから音がするのか分かりにくくなります。
ショッピングモールや広い公園などで、遠くから名前を呼んだときに、どこから声がしているのか分からずキョロキョロしていることもあるかもしれません。
遠くから声をかける場合には、なるべく手を振るなどの身振りをつけて、目で見て分かりやすいように伝えましょう。
それでも気づかないようなときには、近づいて肩をトントンと優しくたたくなどしてから話しかけてあげるようにしましょう。
また、左右聞こえない側や後ろから近づいて来る車・自転車の音に気付きにくいということもあるかもしれません。特に注意するポイントは、歩道と車道の分かれていない幅の狭い道路、車が出てくる可能性のある交差点・横道・駐車場の周りなどです。
「端によって歩く。周りをよく見る」「イヤホンをつけながら自転車に乗らない」など、日ごろから注意を促すようにしましょう。
2. ことばの発達を促す関わりのヒント
片耳が聞こえにくいと必ずことばの発達が遅れるということはありません。
ただ、中にはことばの発達がゆっくりなお子さんもいます。また、雑音の中での聞き取りが低下することによって、聞きこぼしていることばがあるかもしれません。
ちょっと丁寧なことばかけを意識して、ことばの発達を促してあげると良いでしょう。
ことばかけや関わりのヒント2)3)
- ポイント「なるべく静かな場所で」「正面から目線を合わせて」。お子さんの行動をそのまま真似してあげる
- お子さんの出す声や音をそのまま真似してあげる
- お子さんの行動や気持ちを代わりに言葉にして表す
- お父さんやお母さんの行動や気持ちを口に出す(自分の行動を実況中継するように)
- お子さんのことばや発音が間違っていたとしても訂正はせず、さりげなく正しいことばのモデルを聞かせてあげる
- お子さんが言った言葉を意味的もしくは文法的に広げて返す
- 子どもの話題に沿いながら子どもの会話のモデルを示す
これらを全部・常に気をつけようとすると、ご家族も大変になります。
少し頭の片隅に入れておいて、時おり意識してことばかけしてみましょう。
3. 適切な認識を促すための関わりのヒント
お子さんが小さい頃に、ご家族が難聴に対してどのように受け止めていたかが、将来大きくなった時の片耳難聴に対する価値観や認識に影響を及ぼすことが分かってきました4)。
例えば、家庭の中でオープンに難聴のことが話題になる家族の中では、自身の難聴に対してオープンな認識を抱き、難聴の話題をタブーのように扱っている家族の中では、自身の難聴に対してネガティブな認識を抱くようになります。
片耳難聴は自分から「こっちの耳が聞こえにくい」と打ち明けないと周りには伝わりません。配慮を求めるか・求めないかは本人が決めるものですが、困ったときにサポートを求めるチカラは、自分を支えるスキルの一つです。
また、自分の身体の一部である片耳難聴を受けとめられることは、その子ども自身の自己肯定感を育むことにもつながります。
ご家族から「子どもにどのように難聴のことを伝えたらいいか分からない」というご相談をよく受けます。
特にあらたまって話をする必要はありません。日常生活の自然な会話の流れで、難聴のことも話題にしてみてください。
ご家族にお願いしたいポイント
- 難聴のことを自然に話題にしましょう。
例: 「こっちが聞こえにくいから、ママ(パパ)こっちに座るね」 - どんな場面で気を付けたら良いか、教えてあげましょう。
- 例: 「自転車の音がしたら振り向いて確認して」
- 食卓や車の座席などを配慮してあげましょう。
- 声かけに気づかなくても、無視しているわけではないことを理解してあげてください。
- 注目を促してから、聞こえ・理解していることを確認しながら話しましょう。
- 疲れているサインを受け取りましょう。
- お子さんの話に耳を傾け、お子さんの意思を尊重してあげてください。
- 難聴に限らず、何でも相談できる親子関係を作っていきましょう。
参考文献
- Gray L.,Kesser B.,Cole E.(2009)Understanding speech in noise after correction of congenital unilateral aural atresia: effects of age in the emergence of binaural squelch but not in use of head-shadow.Int.J.Pediatr.Otorhinolaryngol.,73(9),1281-1287.
- 竹田契一『インリアル・アプローチ』1994 日本文化学科社
- 中川信子『ことばが伸びるじょうずな子育て』2004 社団法人家族計画協会
- 岡野由実, 廣田栄子(2015)一側性難聴事例における聞こえの障害と障害認識の経緯に関する検討.Audiology Japan,58(6), 648-659.