ことばの発達や学業への影響

Written by 岡野 由実

1. ことばの発達への影響

お子さんが「片耳が聞こえません」と言われて、まず心配されるのが「ことばの発達には問題がないだろうか」ということではないかと思います。
一般的には、片方の耳が聞こえていれば、ことばの発達や学業に影響を及ぼすことはないと考えられています。

一方で、海外では様々な研究が報告されるようになってきました。
海外の研究や私の言語聴覚士としての経験から、いくつかご紹介します。

かつては聴覚支援の先進国である欧米諸国でも、「片方の耳が聞こえているのでことばの発達には影響がない」と考えられていました。

しかし1980年代に、学業成績が遅れている児が一定数いることが報告され、片耳難聴の学業や言語発達への影響について注目が集まるようになってきました1)

2000年代になり、2語文が出始める時期が遅れる2)、語彙が少ない3)、両耳健聴の子どもに比べ遅れがある4)、などことばの発達への影響についての研究が多く報告されるようになってきました。

一方では、「そもそもことばに遅れがある子が専門機関にかかっているのでその子たちのデータを集めても意味がない」といった批判や、「ことばの発達が遅れても就学するころには他の子に追いつく」5)など、ことばの発達に影響を及ぼさないとする意見も根強く残っているのも事実です。

海外の様々な報告を総合し、現在分かっていることをまとめました。

  • 片耳難聴のある子どもの全員が、ことばが遅れるわけではない。
  • 中には、ことばの発達が遅れる子もおり、その割合は両耳が聞こえている子どもよりも多い傾向がある。
  • ことばの発達に影響を及ぼすかそうでないかは個人差が大きく、何が影響しているかは分かっていない。

片耳難聴があると必ずことばが遅れるということは、まずありません。
現に、両耳聞こえる子どもと何ら変わらずことばを身につけ、社会で活躍している片耳難聴の人たちはたくさんいます。

ただ、全体的に発達がゆっくりなお子さんや、コミュニケーションに苦手さのあるお子さんの中には、片耳難聴によって発達の遅れを助長させている可能性もあるかもしれません。

もし、ことばの発達に気になることがあれば、お近くのろう学校の地域の方向けの支援部門や保健センターなどにご相談ください。(参考:「片耳難聴の子どもと親の会」ろう学校の地域支援の一環のグループ活動)

2. 学業への影響

小学生以降の学業への影響について、海外では様々な研究報告があります。

教育的もしくは行動的な問題を抱えている子どもがいる6)、特別な支援を必要としている子どもや留年している子どもの割合が高い1)7)といった報告もありました。

一方で、学業成績も言語発達も問題なし8)9)、検査結果上は両耳聞こえる子ども変わりない10)といった報告もあり、一致した見解が得られているわけではありません。


日本の教育現場でも調査をしました。

ある県内全域の公立小学校の担任の先生を対象に調査11)

  • 自分のクラスに在籍している片耳難聴の生徒と、同じクラスにいる平均的な成績の両耳聞こえている生徒を1名イメージして、学校適応を評価する質問紙[1]を用いて評価。
  • 片耳難聴児73名から回答(回答率12.4%)。
調査結果グラフ1
得点が高いほど良い状態

結果

  • 両耳聞こえている子どもとの差はなく、学校の担任の先生の評価では学業成績や学校適応に大きな問題はみられなかった。
  • 担任の先生が難聴以外にも行動面が“ちょっと気になる”と感じている生徒も数名含まれており、その生徒たちの結果は、他の生徒たちよりも低下する傾向があった(グラフ「合併疑い例」)。
調査結果グラフ2
様子の気になる片耳難聴児との比較

これらの結果より、学校の担任の先生による評価では、片耳難聴児全体としては学業成績や学校の適応に大きな問題があるわけではないことが分かりました。しかし、中には学業成績や学校適応に課題を持っている片耳難聴の生徒もいることも考えられます。

もし学級の中でちょっと気になるお子さんがいた場合、難聴の側面だけでなく、全体的は発達を見ながら、一人一人が必要とする支援や配慮を検討していく必要があるのではないかと思います。

参考文献

  1. Bess F. H.,Tharpe A. M.(1984)Unilateral hearing impairment in children.Pediatrics,74(2), 206-216.
  2. Kiese-Himmel C.(2002)Unilateral sensorineural hearing impairment in childhood: analysis of 31 consecutive cases.Int.J.Audiol.,41(1),57-63.
  3. Sedey A. L.,Carpenter K.(2002)What Do We Know, What Should We Do?.National Symposium on Hearing in Infants. August 1, Breckenridge, Colo.
  4. Borg E.,Risberg A.,McAllister B. et al(2002)Language development in hearing-impaired children. Establishment of a reference material for a ‘Language test for hearing-impaired children’, LATHIC.
  5. Peckham C. S.,Sheridan M. D.(1976)Follow-up ?at II years of 46 children with severe unilateral hearing loss at 7 years.Child Care Health Dev.,2(2),107-111. 
  6. Brookhouser P. E.,Worthington D. W.,Kelly W. J.(1991)Unilateral hearing loss in children.Laryngoscope,101(12 Pt 1),1264-1272.
  7. Oyler R. F.,Oyler A. L.,Noel D. M.(1988)Unilateral hearing loss: demographics and educational impact. .Language, speech, and hearing services in schools,19,201-210.
  8. Hallmo P.,Moller P.,Lind O. et al(1986)Unilateral sensorineural hearing loss in children less than 15 years of age.Scand.Audiol.,15(3),131-137.
  9. Stein D. M.(1983)Psychosocial characteristics of school-age children with unilateral hearing loss. .Journal of the Academy of Rehabilitative Audiology,16,12-22.
  10. Keller W. D.,Bundy R. S.(1980)Effects of unilateral hearing loss upon educational achievement.Child Care Health Dev.,6(2),93-100.
  11. 岡野由実, 廣田栄子(2014)一側性難聴児の学校生活における実態と課題に関する検討.Audiology Japan,57(2), 156-166.
  12. Anderson K . (1989) Screening instrument for targeting educational risk (S.I.F.T.E.R.). Tampa, FL: Educational Audiology Association.
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