お話を伺った方のプロフィール
- 仮名:なのはさん
- 年齢/性別:20代、女性
- 仕事:在宅勤務
- 聴力:右耳が全く聞こえない(110dB)、左耳は聞こえる(0~10dB)
- 原因:高3のとき突発性難聴になった
- その他の症状:めまい、聴覚過敏
- 補聴器の使用:なし
- 周りの人への開示:オープン
- 自身の片耳難聴の受けとめ:悲観はしていない
1. 片耳が聞こえない以上に
なのはさんは片耳難聴以上に、「平衡機能(へいこうきのう)の障害」に困っていると伺いました。バランスを取るのが難しくということですね。具体的には、どんな感じですか?
自分自身や、天井・周囲が回っているようなグルグルするめまい(回転性)、身体や足元が浮き立つような、ふらつくような感じ(動揺性)があります。1時間〜1日続くこともあったり、乗り物にも酔いやすいです。
仰向けになると、視界が回転して気持ち悪くなってしまいます。なので、歯医者や美容院のような仰向けにならざるを得ない場所では、わりと必死です..。夜寝る時も仰向けではめまいが起こることがありますし、朝は気持ち悪さが残る事が多いですね。
あとは、首を逸らして上を向く姿勢もフラつきが出るので、高いところに目をやれないなど日常的に小さな支障を感じています。
原因や治療方法はわかっていないのでしょうか?
5年以上前に突発性難聴になってから、めまいも出るようになりました。当初診てもらったところでは「すぐ良くなるよ」と言われたのですが良くならなくて。
いくつか耳鼻科にかかり、めまいに詳しい先生にも診てもらい検査もしました。それでも、原因はよく分からないと言われてしまいました。めまいの誘因が血流不良による場合もあるからと薬を飲んだこともありますが、変わりませんでした。
突発性難聴など「感音性難聴」の場合、平衡衡覚をつかさどる内耳に障害があり、その影響が出るケースも考えられると言われています。(詳細「難聴に伴う症状」・「めまいの慢性期)」
ドクターからも、あまり問題はないかのようにしか説明はなく、自力でネット等で調べてもなかなか欲しい情報に辿り着けず困りました。
「平衡機能」という言葉も一般的な言葉なのでしょうか..。私は、ここ一年くらいの間に自分で調べて知ったのですが、自分のめまいの感覚を説明する言葉が分かりませんでした。
だから「人にめまいをどう説明するか」についても一人で随分悩みました。
他には、どんなときに大変さがありますか。
常にめまいへの不安がつきまとうのが辛いですね。
私の場合、疲れるとめまいが起きやすく、真っ直ぐ歩くのが難しくなるときもあります。でも、外出先で気軽に休憩できる場所があったらいいのですが。そういった場所も少ないので、外出が億劫になるんです。
疲れてもめまいが起きるし、めまいが起きること自体も疲れるので、常に体調に気を遣い続けなければならない窮屈な感じがありますね。
慢性的な病気のつらいところですね。
加えて私の場合は、難聴になってから聞こえないのに、音への過敏さがあるようにもなりました。乗り物のエンジン音、パソコンなどの起動音が不快に聞こえます。家の中でさえうるさいと感じて、安心できる場所がほとんどないのがつらいです。(補充現象について詳細「難聴に伴う症状」)
- 突発性難聴(とっぱつせいなんちょう)
- 突然起こる原因不明の内耳に障害がある「感音難聴」。ほとんどが片側のみ。繰り返すことはない。めまいを伴うこともある。早期の治療が望ましいとされる。

2. 周りからは理解がしにくい
めまい・聴覚の過敏さは解決手段も少なく、お辛いですね。
他にも、周囲からの理解を得にくい点に大変さを感じています。
特に、私の場合は日常的にめまいやフラフラはあっても、めまいがない大丈夫なときもあるし、症状自体は歩けないほどでもないので、小さいと言えるだろう支障です。
だから、見た目では分かりにくい上、主観でしか辛さが感じられないような理解のしにくさがあるため、怠け者に思われるときもあります。
誤解を受けることがあるんですか。
めまい症状もあり毎日出勤するような仕事が難しいと考え、今は在宅勤務をしています。
でも、それについて家族から「外に出なくていいね」「家にいるから楽だよね」と言われたり、「耳のせいにするな」「慣れないといけない」等と言われることもあって。「甘え」と見られているんだな、と。
そんなことを言われ続けると、「めまいが起こり続けるのは、自分が努力していないせいなのかもしれない」、「これは休むほどのめまいなのか」と、症状が軽いからこそ、それが本当のめまいなのかどうか自分が信じられなくなるような感じがします。
そんな周りの言葉からどう自分を守れるか..というのは、今もまだ少し悩んでいます。
お辛い状況ですが、自分なりに工夫していることはありますか?
自分の症状をモニタリングをしています。いつフラついたり、気持ち悪くなるのか、行動・状況を振り返って、きっかけになりそうなものは避ける・悪化しないようにしています。
そういった記録をして生活改善をはかる「めまい日記」というのもありますね。
予防のためには、とにかく疲れたら何を捨ててでも寝るようにしています。肩こりもめまいに良くない気がするので、ストレッチをしたり、解消のために試行錯誤しています。
めまいが起きたときは、とにかくそっとしておいて貰って休むしかないですね。
たしかに改善のためには、運動や、スマホを見すぎない(神経を使いすぎない)ことなども大事と言われていますね。
音への過敏さの対策は、出かけるときはイヤーマフや耳栓をするようにしています。
- ・ノイズキャンセリング付きのイヤホンやデジタル耳栓:
人の声は聞こえるが、周囲の雑音(ノイズ)をカットする機能がある。最近では、音楽などを聞くイヤホンに搭載させていたり、ノイズキャンセリング機能のみの耳栓などがある(参考例:耳栓おすすめランキング)。

3. 出会ったもの・得たもの
ここまでは、めまいやふらつきについてお聞きしました。それでは、片耳が聞こえない点ではどうでしょうか。
発症したときはちょうど大学受験の時期で、勉強をしないといけなかったので落ち込んでいる暇がありませんでした。
大学時代も、ストレスは今ほど高くありませんでした。
というのも、朝はめまいの気持ち悪さが残るときがあるのですが、それでも早い時間帯には講義を取らないようにするなど自分でコントロールができたからです。
ただ一つ、自分の耳のことを伝えるのは苦手でした。
今はオープンだけど昔はオープンじゃなかった、ということでしょうか?
片耳難聴であること自体は最初からオープンに出来ました。ただ、「こういう配慮が欲しい」ということを相手に伝えるのが全く出来なくて……。
周囲の人が優しくないわけではないのですが、言ってもすぐ忘れられることが殆どなので「私が頑張って聞けばいい」と思っていて。
その気持ちが変化したのは、何かきっかけがあったんでしょうか。
大学生の時、10人ほどのグループになって会話をしたんですね。私は進行役だったので、その時だけは勇気を出して耳のことと「はっきり話して欲しい」ことを伝えました。
すると、一人の後輩が身を乗り出して口をしっかり開いて話してくれたんです! いつもならすぐ忘れられるのに、その子だけは会話が終わるまでずっとそのままで。終わった後も「あれで良かったか?」「どうすれば聞こえやすいかな?」と積極的に聞いてくれて。
言うのが恥ずかしくて、忘れられるのが悲しくて配慮を求めなかったけれど、世の中にはそれだけじゃなく、覚えてくれる人や一緒に考えてくれる人もいるんだと泣きそうになりました。
だから今は、そんな人達に会うために配慮して欲しいことを勇気を出して言うようにしています。
それは、励まされるような体験ですね。
落ち込むことがあっても腐らずにいれるのは「一緒に考えてくれる人もいる」と教えてくれたこの大学時代の体験があったからだと思います。
それから、自分のいる環境を変えられなくても、例えばTwitterを通して理解のある人と出会うみたいに、外に良い環境を得て行くことで少し気持ちも楽になりましたね。
変えられるものは変えていく、変えられないものは他の場やどこか・何かで補えたら、少し楽になるのかも知れませんね。
「片耳難聴になった自分」と「片耳難聴によって起こる不都合」(聞こえないことなど)を分けて考えられるようにすると落ち着きを持てる気もします。
「自分自身」と「問題・課題」を離して考えるようにするコツですね。
もう一つは、知識・理論を得ることも助けになりました。
有川浩さんの『図書館戦争』の2巻には中途失聴の女の子のお話があって。片耳難聴になったときに真っ先に浮かんだのがその本でした。エピソードを通して「聞こえないということは可笑しなことではない」と思えました。
他にも大学生の頃、しょうがいを持つ人を取り巻く環境・差別について調べ、そこで「“しょうがいのない人”中心の社会だからこそ、しょうがいが辛いものになってしまうだけ」というのも学びになりました。
そんな風に社会の見方や、受け入れてくれる人がどこかにいると知ることが「片耳が聞こえないというだけで卑下はしなくいいんだ」という思いの根拠になったんだと思います。

参考情報
- 一般社団法人日本めまい平衡医学会「めまいQ&A]「めまい相談医」
- Audiology Japan「耳鳴診療ガイドライン」