2. 音楽の聴こえの変化
「音楽では聴こえを気にしたことがない」という方が多い一方で、
先天的な片耳難聴の場合でも
音楽の聴こえを気にした経験がある方がいました。
子どもの頃から片耳難聴の方へのインタビューでは
聴取困難な状況の経験から片耳難聴の障害を認識する過程が指摘されています2)。
音楽でも同じように、聴取困難な状況を経験することから、
片耳難聴の聴こえを認識する過程があるようでした。
(1)音楽の 「自然さ」 「快さ」 「明瞭さ」
音楽の「自然さ」(10段階評価)
幼少期から青年期にかけて、音楽を「不自然」に感じる傾向がみられました。

- 生まれつきなので不自然に思うこともなくずっと音楽に親しんできました。・・・合唱団体で初めて周りの声に細心の注意を払いながら歌うようになって、初めて音楽でも右側が聞こえてないことをハッキリと意識しました。(21歳女性)
- ・・・子供の頃から音楽を楽しんでいますが、音楽を好きになって追求すればするほど壁を感じるようにはなりました。・・・音楽を深く楽しみたい時に、ステレオ感が分からないこと・使えるイヤホンの音質が限られることは仕方ないですが悔しく思います。(29歳女性)
というコメントもありました。
音楽の「快さ」(10段階評価)
音楽の「快さ」には有意な変化がみられませんでした。

音楽の「明瞭さ」(10段階評価)
幼少期から青年期にかけて、音楽を「不明瞭」に感じる傾向がみられました。

- ・・・子供の頃は聞こえない世界が当たり前で何も思ってなかったのですが、大人になり、ここ1年程改めて不便さや自分にできないことを感じ、音楽を割と本格的にやっている身として打ち明けるか否かも含め、悩んでいます。特に、オーケストラやアンサンブルで難聴側と和音を合わせなければならないときに難しさを感じています。(23歳女性)
というコメントもありました。
また、
- 片耳難聴になる前の感覚を覚えていないので、自分が健聴者との間にある聴こえの違いを自覚できないのがもどかしい。(21歳女性)
というコメントもあり、先天的な片耳難聴ならではの
心理的状況がみられました。
(2)好みの音楽
音楽編成の好み
幼少期は独奏の音楽を好んでいましたが、青年期にかけて大編成の音楽を好むようになりました。

(3)BGMの聴こえ
「音楽では聴こえが気にならない」という先天的な片耳難聴の場合でも、
後天的な片耳難聴と同様、BGMを煩わしく感じていました。
会話をするときのBGMの煩わしさ(10段階評価)
幼少期から青年期にかけて、「会話をするときのBGMの煩わしさ」が上昇する傾向がみられました。
さらに、現在にかけて、BGMの煩わしさは上昇しました。

子どもの頃から片耳難聴の方へのインタビューでは、
児童期から成人期へなるにつれ、会話が複雑になることが一因で
聴取困難な状況を経験するといわれています3)。
会話をするときのBGMの煩わしさが増加する背景には、
会話内容の高次化も関わっていると思われました。
まとめ
- 幼少期から青年期にかけて音楽への関わりが増加しました(順応がみられました)。
- 先天的な片耳難聴の場合、発症直後に近い幼少期でも積極的に音楽と関わる傾向がみられました。一方、「BGMの煩わしさ」など、後天的な片耳難聴と共通する結果もありました。
- 周りの音に注意を払って聴いたり、合わせる経験から、片耳難聴の聴こえを自覚するケースがありました。また、「両耳が聞こえる人との聴こえの違いを自覚できないもどかしさ」といった先天的な片耳難聴特有の心理的状況もみられました。
出典・参考文献
- 辻慎也,荒井隆行:一側性難聴における音楽感受,および音楽活動への影響・順応の検討—質問紙調査を中心として—.日本音響学会講演論文集(秋), 967-970 (2020)
- 岡野由実,廣田栄子:一側性難聴事例における聞こえの障害と障害認識の経緯に関する検討. Audiology Japan 58(6), 648–659 (2015)
- 岡野由実,廣田栄子:一側性難聴による聞こえの障害場面の発達的変容に関する検討.音声言語医学 59(1), 73 (2018)
