片耳難聴と難聴開示(カミングアウト)
聞こえにくいときに、自己対応ではカバーできないときもあります。
例えば、聞こえる位置を自分で確保できなかったときは、聞こえる位置に移動させてもらえるよう周りの人にお願いすることもあるかと思います。
そのような「他者依頼系の対応」をする前提として、相手に自分の難聴について開示(カミングアウト)する必要があります。
難聴を人に伝えることついて、SNSを使って135名の片耳難聴のある人に調査をしました2)。
周りの人に話した方がいいと思うか
まず、「周りの人に自分の片耳難聴のことを話した方がいいと思うか」という質問の回答結果はこのようになりました。

多くの人が「話した方がいい」と回答していました。
一方で、1967年の論文(片耳難聴者10名にインタビュー調査を行った研究)に、「自分の難聴のことを打ち明けるときに最もネガティブな感情になる」ともありました3)。
自分の聞き取りやすい場所をキープするためには、自己努力だけではどうしようもない場面があります。
そのとき、片耳難聴は外見では分からないので「私は片耳に難聴があります」と言わないと周りには伝わりません。そのため、周りに開示(カミングアウト)し、依頼する必要性を感じている人は多いようです。
しかし、自分の難聴について開示(カミングアウト)するのは、ちょっと気が引けるという方もいるかもしれません。
片耳難聴のある方はどれくらい自分の難聴のことを周りに話しているのでしょうか。(135名の片耳難聴者に調査2))。
どれくらい周りに話しているか
片耳難聴のある方はどれくらい自分の難聴のことを周りに話しているのか、回答はこのようになりました。

大多数の人は「必要な場面のみ話す」でした。
中には「全ての人に初対面の時に話す」という人や「誰にも話さない」という人もいました。
- 今は聞こえないことをオープンにした方が「聞こえていない」と分かってもらえて楽だ。そう思えるまでは、ただ聞こえたふりをしていることもあった。(31歳女性)
周りの人全員に片耳難聴のことを言う必要はないかもしれませんが、必要な場面で必要に応じて開示(カミングアウト)出来る方が楽という意見が多かったです。
一方で、
- 両親以外の人には片耳が聞こえていないということを話していない(話す勇気がない)。友人と深く関わることで知られてしまうのではないかという不安があり、ある程度距離を置いて付き合っている。(22歳女性)
という意見もありました。
この「他者依頼系の対応」は、相手の受け入れ方次第というところが難しいところなのかもしれません。

では、相手に受け入れてもらいやすいように、どのように伝え方を工夫しているのでしょうか。
以下のような意見がありました4)。
- 相手も重く考えて欲しくないですし、あんまり相手の負担にもさせたくないので(中略)軽く伝えるようにはしていますね。そんなに気にしなくていいよ、みたいな。(20歳代、男性、大学生)
- 身近にいて接することが多い人には、特にちゃんと言うけれども、そうでもないときは割と。それで過ぎ去るのなら、やり過ごせるなら言わない時もありますね。(30歳代、女性、医療職)
- 聞こえない時とか。「ん?」ってなったときに「俺、こっち聞こえないから、もう1回」みたいな。それが一番多いと思いますね。(20歳代、男性、専門学校生)
「軽く明るく伝える」「身近で必要な人には伝える」「聞こえにくいことが生じるタイミングで伝える」ということが、周りの人に理解してもらいやすくなるポイントかもしれません。
あわせて、ただ「難聴がある」と伝えるだけでなく「こっち座らせて欲しい」「もう1回言って欲しい」と具体的にどうして欲しいか伝えることも大切だと思います。
開示(カミングアウト)した方がいいのは分かっているけれど、なんだか言いにくい、どのタイミングで言おうかドギマギする…という気持ちは多くの片耳難聴のある人が抱いている感情であり、片耳難聴ゆえの悩みなのかもしれません。
次のページでは、「自己努力系の対応」の中でも「口元を見る」について詳しく見ていきます。