ユニバーサルなマスク

2021年11月30日 − Written by きこいろ編集部

COVID-19の影響により、マスク着用の生活様式が続いています。
以前よりも、音声でのコミュニケーションに難しさを感じている人もいるのではないでしょうか。

このコラムでは、マスクが聞こえに及ぼす影響と、誰にでも使いやすいユニバーサルなマスクに関する情報をまとめました!

目次

  1. マスクと難聴
  2. マスクの色々な種類
  3. マスクの便利グッズ

1.マスクと難聴

両耳がよく聞こえる人でも、マスクやソーシャルディスタンスによって聞こえにくさがありますが、難聴の場合は、どのように影響するのでしょうか。

聞こえにくくなる主な理由は、2つあります。

(1)音圧の低下

マスクをしていると、していないときと比較して音声が聞き取りづらいとされています。
これは、「音圧」がマスクによって低下することが原因だと言われているものです。

「音圧」とは、音の圧力のことを指します。
一般的にdB(デシベル)という単位で表され、数字が上がれば上がるほど音を強く感じます。

イノイリ大学の研究によるとマスクの素材にもよりますが、
高音域を中心に5dB~10dB程度、音が小さくなっている
ことが分かりました。

最も減衰が少ないサージカルマスク(医療用マスク:不織布で作られていて、フィルターが3層構造であるものが多い)が5dB程度、
最も大きいものはプラスティックシールドで、10dB以上も小さくなります。

高音域は、特に子音(a,i,u,e,o以外の音)の聞き分けに必要な音域で、
たとえば、母音は同じでも子音が異なる「七(ち)」と「一(ち)」や、「加藤(とう)さん」と「佐藤(とう)さん」などの言葉が聞き分けづらくなります。

そのため両耳の聴力が正常に聞こえる人でも、こもったように聞こえ、会話が聞き取りづらくなるのです。

片耳が難聴の状態にある人は、両耳聴効果がうまく機能せず、普段から両耳が聞こえる人よりも聞き取りづらいという状態が起きています(詳細「片耳難聴が聞こえにくい理由」)。

マスクで音圧が低下させられることにより、今まで以上に聞き取りにくさが起こることがあるのです。

口形(こうけい)が見えない

難聴の状態にある人にとってマスクが困難さを加速させるもう一つの理由は、マスクが口元を覆い隠してしまうことです。

話しているときの口の形や表情が見えなくなることで、言葉の理解が難しくなります。
学術的に、音声の言葉を理解する際には、「耳からの情報」だけでなく「目からの情報」が相互に影響すると示唆されています(例:マガーク効果

この効果は、片耳が難聴の状況にある人も、両耳が聞こえる人ともに同じです。

しかし、特に両耳に聞えづらさを抱えている人や、手話を主なコミュニケーション手段として用いている人など、聞えづらさをもっている人たちの中には、「読話」と言い、表情や口の形を読み取ることで相手とのコミュニケーションを円滑に進めている人がいます(詳細:「読話」

読話を活用している人にとっては、マスクで口元が見えなくなることで、音の聞こえにくさだけでなく、視覚情報が減り、コミュニケーションが取りにくくなります。

片耳難聴の場合は、「読話」ができる人いう人は多くはありませんが、それでも口元や表情が見えないことで補完できなくなり、聞き取りづらさが増したと感じることになるのです。

口形6種類
日本人は、6つの口形の組み合わせで多彩な発音をしている

2. 色々なマスクの種類

そのように聞こえづらい人にとっても視覚情報を得るのに便利な「表情や口元がみえるマスク」を紹介します。

飛沫感染症対策の効果と(国立大学法人豊橋技術科学大学の「コロナウイルス飛沫感染に関する研究)、視覚情報が得られることによるコミュニケーションの取りやすさをまとめると、現時点では以下のようになります。

フェイスシールドマウスシールド透明マスク
飛沫防止効果×
視覚情報の
得やすさ

商品によっても見えやすさ・聞こえやすさは異なります。
使用する際は、メリット・デメリットなどを確認しましょう。
なお、販売はインターネット通販が主となっています。

フェイスシールド

フェイスシールドは、透明なプラスチックで作られており、顔全体を見ることが出来ます。
そのため、幼い子どもなど人の顔が見えないことが不安につながりやすい相手と関わるときにも、重宝されることがあります。

顔全体に感染源となるウイルスや飛沫が飛んでくることを防ぎ、特に目からの感染を防ぐとされています。

しかし、自分の唾液や痰が相手に飛ぶのを防ぐ効果は低く、小さな飛沫エアロゾルを防ぐ効果はないという報告もあります(参考:「新型コロナウイルス感染症対策推進室 内閣官房室」)。

プラスチック等の素材のため、湿気が逃げづらく、使っている途中に視界が奪われてしまったり、熱気がこもり脱水症状を引き起こしやすくなるため注意が必要です。

商品によっては、水滴を素早く乾かせ曇りにくしたり、フィルムへの光の映り込みや反射を軽減させる素材や加工もあります。

マウスシールド

マウスシールドとは、フェイスシールドと同様、透明なプラスチック等の素材で、口元を外から見ることが出来ます。口元を覆い、相手からの感染源となるウイルスや飛沫が飛んでくることを防ぐものです。

マウスシールドは口元のみを覆うもので、曇ってしまったときに視界が奪われにくいメリットがあります。

フェイスシールド同様に、一般的な不織布マスクと比較すると感染対策には効果が弱まってしまう難点があります。

透明マスク

透明マスクとは、半透明の特殊な素材で作られたマスクのことです。

マウスシールドやフェイスシールドは、感染対策の効果が低いとされています。そのため、飛沫やウイルスを通さない素材を用いた透明マスクが開発されました。

曇り感を防ぐもの、透明度が著しく高いものなど、各メーカーによって特色のある透明マスクが開発されています。

しかし、透明マスクは現在欲しいと思っている人が非常に多く、手に入れるのが難しかったり、
自作の方法なども公開されていますが、自分だけが持っていても周りの人が使用していない場合はコニュニケーションの難しさが緩和されにくいこと、
使用している人も少なく着用への抵抗感が生まれてしまう等の課題もあります。

オフィスにいる女性二人。二人とも透明マスクを付けて楽しそうに話している。
Originally tweeted by Google Japan (@googlejapan) on 2021年12月9日.

3. マスクの便利グッズ

マスク自体の着用に困難のある方もいます。

たとえば、「小耳症(しょうじしょう)」という生まれつき、耳の形が不完全で小さい状態でマスクができない場合があります。耳かけ型の補聴器を使用している人にとっては、マスクは着けづらく、マスクの着脱時に補聴器が外れてしまうこともあります。

それ以外にも誰しも、マスクの紐が痛いと感じることがあったり、眼鏡かけるには邪魔になってしまうなど、不便を感じる人も少なくありません。

こういった「マスク自体のつけづらさ」にリーチした商品も開発されています。

耳にかけないマスク

「耳にかけないマスク」とは、名前の通り、耳にかけずに使用することができるマスクのことです。

  • 首の後ろで巻いて着用するタイプ
  • 顔に直接、貼付けるタイプ
  • 通常より長くなっている紐の部分を頭の後ろで結ぶタイプ

また、通常の形状であるマスクの紐に「フック」などをかけ、延長して使用するグッズもあります。

主にインターネット販売や、中にはドラックストア、100円ショップで購入できるものもあります。どのタイプが使いやすいか、ご自身に合うものを確かめてご使用くださいね。

マスク時にも使用できる、補聴器落下防止チェーンバンド

マスクではありませんが、補聴器を使う方は「補聴器落下防止チェーンバンド」というものもあります。

耳にかける一般的なマスクの着脱時に、補聴器が落ちないようにするものです

補聴器本体と洋服の襟などにつけられるクリップがストラップで結ばれており、補聴器が耳から外れても、落下しないようになっています。

ただ補聴器の大きさ/重さ・ご自身の動作によっては、かえってストラップに補聴器が引っ張られてしまう場合もあるため、確認して使いましょう。

インターネット上や、補聴器店で販売されています。

皆さんが使ってみての感想やおすすめのグッズ等がありましたら、こちらより情報をお教えください!

COVID-19だけだなく、インフルエンザなどの感染対策、花粉症対策などマスクをする機会は多いもの。

グッズと合わせて、片耳難聴者に限らず誰しもコミュニケーションが取りにくい状況を、皆で工夫していけたらと思います。

聞こえにくい状況での
話し方のコツ(例)

  • ゆっくり、はっきりを心掛けて話す
  • うなずき、数字を指で表すなどジェスチャーを取り入れる
  • 文字や絵などを活用する(例:注文時はメニュー表を指さす)

  • *「ユニバーサル」とは:
  • 「ユニバーサルデザイン」とは、すべての人を対象とし「年齢や能力、状況などにかかわらず、できるだけ多くの人が使いやすいように、製品や建物・環境をデザインする」という考え方。

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