片耳難聴に使える補聴機器

Written by 岡野 由実

両耳難聴の人たちにはよく使われている補聴器。「片耳難聴に補聴器」は日本ではあまり一般的ではないかもしれません。でも実は、片耳難聴者でも使える補聴機器がいつくかあります。

片耳難聴に使える補聴器の種類

この記事では、それぞれの特徴を解説します。自分の困っている状況を補聴器でどれくらいカバーできるのか、それに見合う費用なのかなど、メリット・デメリットを踏まえ検討しましょう。


1. 一般的な補聴器

以下のような一般的な補聴器を難聴側の耳に装用する方法があります。

補聴器のタイプイメージ
補聴器のタイプイメージ

片耳難聴の人が一般的な補聴器を難聴側に使う場合、難聴耳の聴力が「70dB未満の軽度~中等度難聴」でないとなかなか効果が出ません。補聴器の出せる音の大きさと、耳が耐えられる音の大きさには限界があるからです。

そのため「70dB以上の高度~重度難聴」の場合には、難聴耳に補聴器をつけるのは難しいかもしれません。難聴側の聴力が高度~重度の場合には、これ以降に紹介する2~4の補聴機器の方が向いています。

さらに、よくある誤解として「補聴器つけていれば聞こえる」というものがあります。しかし、軽度~中等度の難聴の方でも、補聴器によって正常な聞こえに戻るわけではありません。補聴器はあくまで音を大きくする機械です。効果は人それぞれになります。

補聴器の形には、2つのタイプがあります。

  • 耳の穴の中に入れるタイプ(耳あな型)
  • 耳にかけるタイプ(耳かけ型)

耳あな型は、目立たない・マスクや眼鏡の邪魔にならないメリットもありますが、ハウリングを起こしやすく、耳閉感を感じたり、聴力や耳の中の状態によっては適しません。
また、お子さんの場合、成長により耳の穴の大きさが変わりやすく、落下や紛失の可能性があるため、一般的には耳かけ型を使用します。

補聴器の価格には差がありますが、その価格の差は
・調整できる幅の細かさ
・騒音抑制機能や指向性機能の性能が高い
・オプション機能(スマホと連動できる)
などです。予算を決めて、自分の生活環境に合った補聴機器を選びます。

ただし、価格に関係なく、正しく補聴器を調整してもらうことが大切です。補聴器は眼鏡のようにかければすぐ聞こえるようになるものではありません。何度も調整を繰り返す中で、補聴器の聞こえに慣れていく練習をする必要があります。

そして、他の補聴機器にも共通して言えることですが、ランニングコストがかかります。耐用年数は5年と言われていますが、日々のメンテナンスによっては5年未満で故障することも、5年以上使用することもあります。

なお、左右の聴力差が25dB以上ある場合などは、
購入の前に耳鼻科医を受診するというガイドラインが一般社団法人日本補聴器販売店協会と特定非営利活動法人日本補聴器技能者協会によって定められています(補聴器相談医

2. CROS補聴援助システム

クロス補聴器は、難聴側で聞こえる音を、聞こえる耳で聞き取るための補聴器です。そのため、難聴側が全く聞こえない人でも使うことができます。(聞こえやすい耳の方にも軽い難聴がある人のために「バイクロス」という補聴器もあります)

クロス補聴器の仕組みイメージ
クロス補聴器の仕組みイメージ

使い方は、難聴側の耳には送信機能のみの補聴器を装用。聞こえる耳には受信機能のある補聴器を装用します。難聴側の送信機で音をキャッチしたら、電波で健聴側の受信機まで飛ばします

難聴側の音が聞き取りやすくなる反面、デメリットもあります。例えば、難聴側に雑音がある場面ではかえって聞こえやすい耳側での聞こえを妨げてしまうこともあるのです。

そのため、難聴側の音も聞き取りたい場面(例えば会議など)を選んで使用します。

<使用している人の声>

  • 職場で隣の席の声が聞き取りにくいから使いたい
  • 会議を聞き取りやすくしたい
  • ママ友との食事会の話を聞き漏らしたくない
  • 保護者会での話し合いの場で使用したい

自分自身でクロス補聴システムが適している場面と適していない場面を把握して、付けたり外したりする必要があるため、あまりお子さん向きではありません。 

他にも片耳難聴の困りごとのひとつ、「音の方向感を掴む効果」は期待できないと言われています。

3. ワイヤレス補聴援助システム

周りに雑音がある環境でも聞き取りの改善ができるのが、ワイヤレス補聴援助システムです。聞こえている方の耳に装用して、使うことができます(両耳難聴の人も、補聴器や人工内耳に直接音を飛ばして使うことができます)

ワイヤレス補聴援助システムの使用イメージ
ワイヤレス補聴援助システムの使用イメージ

使い方は、話し手に送信用のマイクを持って話してもらい、受信機能のみの補聴器を聞こえる耳に装用して使います。話し手の声が、デジタル無線やFM電波によってダイレクトに補聴器に届く仕組みです。

特に、効果を発揮するのは、1人の話し手に対して聞き手が大勢いるような場面(学校の授業や講演会など)です。

欧米諸国では、学校生活を送る片耳難聴の子どもたちを始め、騒音下で聞こえづらさを訴える子どもたちにも積極的に導入されています。

自身で補聴器をつけた場合は、周りの音をキャッチできるのは約2m前後。そのため、遠くから発せられた音には効果がありません。

しかし、ワイヤレス補聴援助システムでは、送信機が話し手側にあるため、自分と離れた場所(15m程度)にいても使うことができます。

一方で、マイクの近くで話してもらわないとあまり意味がないため、話し手が複数いて騒音が大きい場面パーティー会場・居酒屋、休み時間の友人との会話など)では、なかなか効果を実感できません。

最近では、マイクが複数の方向に向く送信機も発売されています。それでも、騒音が多すぎると聞きたい話し声だけでなく周りの雑音も拾ってしまうため、快適に使うにはなかなか難しいかもしれません。

4. BAHA埋め込み型骨導補聴器

音の情報が内耳という音を感じ取る器官に届くルートは、2つあります。

  • 外耳~中耳~内耳と伝わる「気導」
  • 頭蓋骨を通して直接内耳に伝わる「骨導」

BAHA(バーハ:Bone-anchored hearing aid)は、「骨導」を使って内耳に直接音を届けるものです。そのため、内耳に障害のない伝音性難聴に有効です。

また、内耳に障害のある感音性の片耳難聴の場合でも、聞こえない耳の側に骨導補聴器を装用し、聞こえにくい方の音を、頭蓋骨を介して聞こえる耳の内耳に届ける(クロスさせる)ことができます。

片耳難聴へのBAHAの埋め込みイメージ
片耳難聴へのBAHAの仕組みイメージ

方法は、手術によって耳の後ろ側の頭蓋骨にインプラントと呼ばれる器具を埋め込みます。そして、一部突出しているインプラントに体外装置をパチッと装着して使用します。

BAHAの装着イメージ
出典: BAHA official blog

一般的な骨導補聴器は、埋め込む手術は必要なく、カチューシャのような形をしており、外れやすかったり骨導端子の圧着が強すぎて痛かったりします。

BAHAでは骨導補聴器を頭蓋骨に埋め込む手術をすることで、この欠点をカバーすることができます。ただし、インプラントの一部が頭に突出しているため、皮膚の感染予防のために日々メンテナンスが必要です。

海外では、BAHAが片耳難聴、特に難聴側の聴力が高度~重度の「片耳が聾(ろう)」の人に使用されています。しかし、片側聾の人にBAHAについてガイダンスを行ったところ、約半数が試聴を希望せず、試聴した約半数が手術を希望しなかったと報告もあります。その理由が経済的な理由や見た目の問題などでした。

片側聾の人へのBAHAの効果については様々な報告があり、雑音の中での聞き取りは改善し、聞こえにくい側の音を聞き取るのには効果があるようです。

音の方向感覚の把握については、結局のところ聞こえる耳の内耳で聞き取っている訳なので、改善しなかったという報告が多くあります。

日本では、両耳の伝音難聴には2013年~保険適応(平均骨導聴力が45dB以内で、各補聴器や手術での改善が見込められない場合)されていますが、片耳難聴については客観的には効果の立証ができず、保険が適応されていません。
(独立行政法人医療機器総合機構「審議結果報告」)

5. 人工内耳

補聴器の効果が難しい両側の重度難聴」の子どもや成人に使用されている機器です。片耳難聴への人工内耳については、効果の実証研究がされています。

仕組みは、電極を内耳の中に埋め込み、音がすると内耳に埋め込んだ電極から電気が発し、内耳の中の細胞を刺激します。その刺激が、脳では音情報と認識されるというものです。

聞こえる音は、内耳の中にある何万本という細胞の代わりに数十個の電極で刺激を送っているため、通常とは異なります。

そのため、完全に聞こえを改善させるわけではありません。機械的に25〜35dBの音がしたときに電極が反応して、音として認識されるのです。個人差がありますが、重度難聴・高度難聴(90dB以上)の聞こえが、軽度難聴(35~40dB)程度の聞こえになると言われています。

また、効果には個人差があり、一般的には難聴を発症してからの期間が短い、手術する年齢が低い方が、術後の聞こえが良いと言われています。

人工内耳の手術は、電極を制御する「インプラント」と呼ばれる装置を頭皮の下に埋め込みます

インプラントの中央には強力な磁石がついており、この磁石によって体外装置をペタッ頭にくっつけています。

手術後には、聞こえに慣れていくために時間とリハビリが必要です。定期的に調整に通い続けます。もし体内の機械に故障や周囲に感染などが起こった場合には、再手術が必要となります。

日常的には、頭部の強い刺激によりインプラントが破損するのを防ぐために、スポーツやダイビングなどの制限があります。

実は、当初、片耳難聴の人に対する人工内耳の使用は、難聴のある耳の耳鳴りの治療のためでした。それが結果として、聞こえの改善が見られたため海外では片耳難聴のある大人や子どもの聞こえの改善のための人工内耳に注目が集まっています。

海外の報告によると、難聴側からの聞き取り、騒音の中での聞き取り、音の方向感のいずれにも効果がみられているようです。ただし効果には個人差が大きく、中には「聞こえる耳と同じように聞こえるようになった」という人もいれば、「人工内耳を着けることでかえって聞こえる耳による聞こえの邪魔になってしまうため外している」とという人もおり、片耳は正常に聞こえているがゆえの難しさもあるようです。

(詳細「人工内耳とは」

6. まとめ

片耳難聴のある人が選択できる機器のそれぞれのメリット・デメリットをご紹介してきました。

また購入を検討する際には、必ず試聴をしましょう。
手術が必要な機器については、手術を検討する前に納得いくまでガイダンスを受けましょう。

どのデバイスにも一長一短があります。

生活の中でどのような場面で困っているのか、どのデバイスであればその困り感を軽減できるのか、専門の病院や、専門の補聴器販売店で相談してみても良いかもしれません。

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