「片耳難聴だからって音楽ができないわけじゃない」きこいろ音楽担当インタビュー

2020年6月29日 − Written by 麻野 美和

会員メンバーからのリクエストを受け、「音楽」をメインテーマに片耳難聴のしゃべり場「片耳難聴Cafe」を行うことなりました。

7月24日はいつもの片耳難聴Cafeを行う会と、音楽について話を深める会を設けます。

片耳難聴Cafe with「音楽」オンライン

  • 日時:7月24日(金・祝)18:00~20:00 途中入退場OK
  • 参加費:無料
  • 定員:5名(原則、片耳難聴Cafeリピーターの方)
  • 方法:オンラインビデオ通話ツールZOOM
  • 進行:麻野(きこいろCafe担当)
  • ゲスト:辻(音楽担当)
  • 片耳難聴Cafeとは:非会員の方も参加できます
  • 申し込み・問い合わせ:こちらのフォーム

今回の音楽をテーマに開催するにあたり、きこいろ音楽担当の辻慎也さんをご紹介(2019年まで掲載していた旧ブログの記事を移行したものです)。

辻さんは、武蔵野音楽大学大学院卒。現在は、上智大学大学院博士後期課程理工学専攻、難聴者音楽感受研究所研究協力員として「片耳難聴における音楽の感受・音楽活動への影響」をテーマに研究を行っています。

片耳難聴Cafeに参加される方はもちろん、音楽に関心のある方にも共感できるエピソードをご覧ください!

ピアノを弾く人

お話を伺った方のプロフィール

  • 年齢、性別:20代/男性
  • 所属:大学院生、ピアノ専攻(インタビュー当時)
  • 聴力の程度:右側が全く聞こえない
  • 発症時期:生まれつきか物心がつく前に失聴し、小学校の検診で発覚
  • 原因:原因不明
  • その他の症状:めまい・耳鳴りなし
  • 周りの人への開示:必要に迫られたら開示する
  • 片耳難聴の受けとめ:ごく当たり前の感覚

1.ピアノを始めた幼少期~音大に入るまで

片耳難聴をハンデは感じなかった

まずは、辻さんの音楽歴について教えてください。

音楽を始めたのは、2~3歳の頃です。YAMAHA幼児コース、アンサンブルコースに通い、音楽のテクニックというよりも、他の人の「音を聴く」ことを学んできました。
クラシックのピアノを本格的に始めたのは小学校5年の時で、やっていくうちに音大受験も考えるようになり、今に至ります。

辻さんは、生まれつきの片耳難聴ということでした。習い始める時には、心配に思ったりしませんでしたか?

心配はなかったです。生まれつきなので、「片耳難聴」と診断された時にも、ピンと来なかったくらい、片耳が聞こえないことが自分にとっては「自然」で。幼かったこともあるとは思いますが。
片耳難聴を過度に心配しなかった両親の影響もあるかと思います。

自然に始められたんですね。実際に始めてからも、ハンデと感じることは少なかったんでしょうか。

そうですね。周りと比べてもむしろ音楽が良くできる方だった子供時代だったので、あまり気になりませんでした。
思い返してみると、独奏や少人数のアンサンブルを中心にやってきたので、片耳難聴はそれほどハンディキャップにならなかったのかも知れないです…。

それでも音大となると、素人印象ですが、ただでさえハードルが高そうです。進学に迷いはありませんでしたか?

その時は、片耳難聴が特別に音楽的能力に影響しているとは感じていなかったので、迷いはありませんでした。
受験のときも、「受験に必要な配慮」ということで、耳のことを伝えようと思えば伝える機会もありましたが、特に試験の上でサポートを必要としていなかったので伝えていません。音大だからといって、試験に聴覚検査がある訳でもないですし…。

そうなんですね。片耳難聴のことは、普段から周りの人に話しませんか?

必要になったら話すスタンスですね。親しい人、担任の先生やピアノの先生などコミュニケーションをよく取る人には、伝えていた方が話しやすいので言っていますね。

周りの音楽をやっている人の受けとめは、どんな感じですか。気にされないですか。

先生に伝えると、音楽に支障がないかと心配されました。そのときは、ピアノの演奏には支障がないと伝えています。
友人の反応は様々で、「大丈夫なの?」という声もあれば「半分しか聞こえないのに弾けてて凄い!」とか、音楽に関係なく、生活上の質問されることもありました。

自分の後輩や先輩、実は大学の学科長も片耳難聴であるなど、案外周りには同じ境遇の人がいるので、そんなに浮いてしまうといった感じはありません。

身近にも結構いるものですね。

ただ、レッスン担任の先生に、片耳難聴の音楽の聴こえを説明するのはちょっと難しいです。
基本的に「ピアノの演奏では両耳が聞こえる人と変わらない」と説明していましたが、どこまでが普通の人も感じる困難で、どこからが片耳難聴による困難かの線引きって、会話でも曖昧なのに、音楽だとなおさら分からないですよね。そのことに言及した資料もないですし…。それが、「片耳難聴と音楽」を研究テーマにしたきっかけでもあります。

辻さん
辻さん。各地の演奏会に出場し充実した日々を送っている

2.音大での学び、そして現在の研究へ

片耳ならではの音感覚という経験

実際に音大で本格的に学んでみて、なにか変化はありますか?

音大で深く学ぶうちに、周りとの音感の違いを考えるようになりましたね。
ピアノ演奏で、聞こえる人と1番の差があるなと感じたのは、練習の時と本番で空間が変わったときの聞こえです。先生の言う「ホールでは音が飛んでいってくれるから弾きやすいと思う」ということが理解できませんでした。

コンサートホールでは、音をより良くするために必要なエコーが効くように作られています。それが、片耳で聞く場合は、音の距離感が掴めず、両耳で聞く場合とは響きの感覚が違ってくるということですね。

ぴったりの表現が見つからないのですが…。僕の場合は、ホールが広いほど自分の音が練習のときより小さく感じられ、「曖昧」「現実感がない」ような感じがします。

学部生の頃は、空間の響きの違いを感じる余裕があまりなかったのですが、最近になってよく分かるようになりました。
そう思うと、気にするかしないは、本番の緊張感や個々の性格にも左右されるかも知れませんね。

片耳難聴を持ちながらよりよく演奏するために、工夫していることはありますか?

リハーサルで響きを意識的に聞いて慣れるくらいでしょうか。
でも一般的に、音大受験の時やコンクールではリハーサルが出来ません。なので同じく片耳難聴の後輩は、自分の出演前に客席で他の人の演奏を聴いて空間に耳を慣らす、といった工夫をしているようです。

なるほど。その他では、なにか困ったなというありますか。

大変さをはっきりと感じたのは、教育実習での吹奏楽部の指導の見学でした。
たくさんの楽器が鳴っている中で、細かいパートを修正していく先生の聴こえの感覚と、自分の聴こえ方が違っていたんです。それまで、中〜大規模なアンサンブルの経験がなかったので、初めて違いに直面しました。

具体的に言うと、どんな違いなんでしょうか。

全体としての聴こえは共通していました。違ったのは、細かな所の聞き分けです。
楽譜を渡されておらず、知らない曲だったこと、慣れの部分もあるかと思いますが。ちょっとしたリズムの乱れや音程のズレを顧問の先生のようには聴き分けるのが難しく感じました。

両耳で聞くことで可能な「音の取捨選択」が片耳だと難しいということに起因すると思うのですが。(詳細「片耳難聴の聞こえ:両耳聴効果について」

これまで大丈夫と思っていたのに、戸惑うような体験ですね…。

ショック・失望というより、将来の心配でしたね。
子どもの頃からイヤホンやスピーカーで音楽を聴く時に、「音が動く感覚」や、「音の方向によってある音が浮き立って聞こえる感覚」といったステレオ感を片耳で聞く場合は得られないのは分かっていて、受け入れてもいたので。

その当時は教員を目指していたので、「部活で吹奏楽の顧問になったら、きめ細かな指導ができるのだろうか」という不安、訓練と工夫によって大丈夫になるだろうと思いつつも、迷いました。

それでどうされたんですか。

教員実習後、教採2次試験に落ちてしまって。それでレッスン担当の先生からも勧めもあり大学院進学を決めました。それが自分にとっての転機でもありました。

研究テーマを決めるにあたり、それまで気にしていなかった、「片耳で聴く音楽の聞こえ」を改めて考えるようになったんです。何か該当する資料がないか探してみましたが、ソースとして信頼できる書籍・論文に片耳難聴と音楽をテーマにしたものはありませんでした。

そこで、「自分が大学院で研究すれば良いのだ!」「他の片耳難聴の人にも役立つかもしれない!」と逆転の発想が生まれ、いまに至ります。

オーケストラ

3.難聴のプロプレーヤー

片耳難聴と共に音楽を楽しむ

そんな紆余曲折ありつつも、辻さんは、軽やかに音楽を楽しんでいるなぁという印象があります。

そうですね。片耳難聴が音楽に影響しないとは言いません。でも、片耳難聴だから音楽が出来ないとか、諦めなければならないってことはないと思います。もっと言えばプロとして活躍されている方だっていますし、不可能ではないはずで。

私の話になってしまいますが、10歳で片耳が聞こえなくなったとき、真っ先に浮かんだのが当時頑張っていたピアノだったんですね。大丈夫かなって。でも、よく考えてみると自分が好きな音楽家ベートーヴェンも、難聴だったぞ、と。「それなら私も大丈夫だ!」とへんな自信を持ったのを覚えています。

両耳の難聴の方も、活躍されていますよね。
世界的に活躍しているピアニストのフジコ・ヘミングは、後天性難聴で右耳が完全に聞こえず、左耳にも難聴があるそうです。

日本では、有名な歌手である、浜崎あゆみさん、堂本剛さんやスガシカオさんも、成人後に片耳難聴になられながらも活躍されていますよね。

症状や発症した時期などバックグラウンドも人それぞれですし、大変さがないとは思いません。でも、心強いなと思います。

プロの世界、片耳難聴を差し引いても相当な努力をされているんですよね。最近私は、ジャズドラマーの福盛進也さんを聞いてます。生まれつき左耳感音難聴だそうです。

出典:ゆっくり、だけど、確実に。 〜福盛進也 音楽半生記〜「BLUE NOTE CLUB」

それでは最後に、辻さんなりの「片耳難聴と共により音楽を楽しむためのコツ」はありますか?

演奏の場合、ピアノ独奏では片耳難聴を大きなハンディキャップとは思いませんが、アンサンブルをするときは、聴き分けのために楽器数が小編成の曲を選ぶようになるべくしていますね。

日常的な場面では、イヤホンで音楽を聴くときに「モノラルオーディオ機能」を使っています。iPhoneであれば、「設定」の「アクセシビティ」からモノラル出力にできます。
最近は、New Monauralという片耳難聴のための特殊なモノラル再生ができる音楽アプリも使っています。

ありがとうございました。今後の研究報告を楽しみにしています!


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