お話を伺った方のプロフィール
- 仮名:もんくら
- 年齢/性別:10代/女性
- 所属:中学生
- 難聴のタイプ:左耳が伝音性難聴、右耳は正常聴力
- 原因:先天性の小耳症で外耳道閉鎖症
- その他の症状:なし
- 補聴器の使用:なし
- 周りの人への開示:みんな知っている
- 片耳難聴の受けとめ:ハンデとはあまり思っていない
「分かりにくいじゃないですか?片耳難聴って。
全く聞こえない訳じゃないし、なってみないと分かんない感じで。
だからこそ、理解とか説明が難しいのを、どうにかして分かるように説明したいっていうのかな。
めっちゃ支障があるって訳じゃないけど、ちょっとは支障あるよっていうのを分かってもらいたい、って個人的には思っていて。
それに、片耳難聴だからこそ、できることもあるんじゃないかって思うようになったんです」
そう語ってくれたのは、もんくらさん、13歳。
きこいろでは、これまでも多様な片耳難聴を持つ人の声をインタビューとしてお届けしてきました。
今回は初めて中学生にお話を伺ってみました。
生まれつきの片耳難聴は1000人に一人と言われ、子どもの頃からの片耳難聴の方も多くいます。まさに、子ども時代をリアルタイムで過ごしているもんくらさんにお話しをお聞きしたいと思います。

1. 親は、喋れるのか心配していたって
もんくらさんは、「小耳症(しょうじしょう)」という生まれつきの耳たぶの形が小さいのと、「外耳道閉鎖症(がいじどうへいさしょう)」という耳の穴が塞がっているため片耳が聞こえにくいんですよね。
はい。それを自覚したのは、幼稚園の頃だったと思うんですけど。あんまり覚えてなくて。親からも物心ついた頃に言われて、「そうなんだ~」くらいの感じでした。特になんとも思ってなかった。親は、生まれつきだったから「喋れるのか心配だった」と言っていました。
当の本人より親の心配が大きいとも、よく聞きますね。では、まずご家族との話から聞かせてください。
親は心配もしてたと思うけど、耳のことがあるからといって特に制限なく育ってきました。学校も習い事も、全体的に自由に。「まずはやってみる」「やってみて危なかったら考える」みたいな感じで。
普段、親と片耳難聴の話も全くしなくて。物心ついた頃に「小耳症っていうもので、大きくなったら手術するよ」って言われて。
入院もしたけど、改まって話すのはなかったです。耳のことを友達や学校に伝えるのも、全部自分でやってますし。
別に話さなくてもいいやって感じ?親には、分かってほしいという気持ちはないですか?
うん。今回も、インタビュー受けるのに親の同意が必要ってことだったので、伝えたら「どうして受けようと思ったの?」と母親に聞かれて、「他の人にも知ってほしい」ってことを言って、「ふーん、そうなんだ」ってくらいのやりとりでした。
家の中では、どうしてますか?
普通に過ごしてますね。席のポジションとかも関係なく。
たまにTVを見る時に、聞こえない耳側にTVがあると分からないんですけど。その時は、あー聞こえないなーって、後ろ向いてちらちら見たり。
聞こえる右側で家族がしゃべってて、聞こえない左にTVがあったら、TVの音は何も聞こえません。
そんな時どうするの?
諦めますね。TV好きじゃないんで、元々ほとどんど見ないし。唯一見る番組があって、その時は音量を上げて。弟も一緒に見てるんで、いいかなって。
弟ももちろん耳のことは知っているので。自分が入院してる時、弟は小1だったかな。「入院で一か月いないよ」って親が弟に言ってました。
今も別に変わりなく一緒に過ごしてます。あるとしたら、イヤホンの貸し借りで、右と左でイヤホンの形が違うもあるじゃないですか。だから、「ちょっと右(聞こえる方)貸して」、もし取るんだったら「左(聞こえない方)使って」って言ったりとか。
ごく自然に過ごしてきたんですね。
うん。あとは、親戚も多くないし、滅多に会わないから気にしてないですね。
最後に会ったのは、自分が小学校低学年かな。そのときは、そもそも言おうって発想にならなかった気がする。だから、自分からも言ってないですね。

2. 前の耳でちょっと過ごしたかったな
耳たぶの形をつくる手術を4・5年生で行って、2カ月入院したということで。その話も聞いてもいいですか。
病院には、同じような子が沢山いたので、ワイワイしてました(笑)
術後が痛いぐらいで、後は特に。
人によって違うみたいで、大丈夫な子もいたみたいだけど。助骨を何本か取って耳にするから、1回目は初めての感覚だし、あくびすると痛かった。2回目は1回目よりマシだったけど、術後翌日に皆でトランプやって、すごい笑っちゃって痛かったのを覚えます。
よく頑張りましたね。
手術は、やりたいって事もないけど、まぁやった方がいいよねってくらい。
今はやって後悔してないけど、前の耳でちょっと過ごしたかったなとは思う。
耳の穴をつくる手術の方は難しいらしいし、そこまではしなくてもいいかなって考えてます。
「前の耳でも過ごしたかった」ってどういう感じなんでしょう。
なんでなんだろう。人とは違って、愛着があった。簡単に言えばそんな感じかな。
今の耳はどうですか?
今の耳は耳で、再現度が高いんですよ。すごいなぁって。最初見たとき、えっ?!て驚いた。すごい、ちゃんと形になってる..って。
しかもそれが自分の体から作られたと想像するとスゴイことですね。
そうそうそうそう。そうなんですよ。だからなんか、今は今で大事です。
周りには手術をしない選択をした人もいましたか?
そうですね。そういう友達もいます。
もんくらさんが感じる術前・術後の変化はありますか?
気持ちの変化は特にないかな。
生活の面だと、耳ができてマスクができるようになりました。だけど、長時間やると痛いから、学校とかだと6の字のフック使って過ごしてます。
人と違う部分だと思うんだけれど、それは気にはならない?
自分は気になりません。
あるのは、卒業式の練習の時にコロナが流行ってたから、歌う度にマスクを着けたり外したりしなきゃいけなくて。私の場合、いちいちフックもやんなきゃいけなくて。
からかわれたりとか、嫌な記憶はありますか?
からかわれたりしないかなぁ。
「マスクちゃんとかけれるー?」と言われたことはあるけど。ヘンな感じじゃなくて、自分は気にしなくて。
幼稚園の頃にも「なんか形違うねー」って言われたことがあったけど、たぶん、相手に悪意はなくて。そのときは、ちょっと気にはなったけど「あ、うん、そうなんだー」って軽く流してたと思います。
別に隠したいとも思ってなくて。
「こっちの耳、聞こえないからよろしくー」、周りも「そんな気にしなんよー」「OK!」っていう感じですかね。
手術で入院した時には、仲の良い子に手術方法を伝えたりもしてて。そしたら「あー、そうなんだー」って。
周りの反応も嫌な感じはしなかったんですね。
うんうん。
人に伝えるときも、だいたいは見せながら「昔は耳たぶだけみたいな状態だったんだけど、今は手術してこんな感じだよ」、「耳の穴がないから聞こえないんだ」って言ってて。耳の穴が塞がってるから、って言った方がわかりやすいかな、と。
きっと、相手も納得しやすいですね。
聞こえのことだと、声の大きい男子がいて、むしろ大き過ぎて聞きとりにくいんんだけど「ねえ、聞こえるー?」って。そしたら他の人も振り向いて。「ちょっと待って、振り向いたじゃん!」みたいな話はしてます(笑)
でもそれくらい。小学校からずっと一緒にいるから、それが普通。「また聞こえなかった~?」みたいな、笑いまじりっていうのかな、からかいとかの笑いじゃなくて。
嫌な笑いと、嫌じゃない笑いってありますよね。
そう、嫌じゃない笑い。
―認めてもらってるからこそネタにできるのかもしれないですね。
そうそうそうそう、そんな感じです。

- ・耳掛けないマスクや、顔に貼るマスクも市販されている。
- ・耳にかけないメガネや、頭部で固定するメガネ補助ツールも市販されている。
3. 不便より楽しい気持ちの方が勝つ
幼稚園の頃から、誰にでも自分から伝えているというもんくらさん。
そして今は、小学校~中学校と持ち上がりなので、同じ学年のほとんどの人が、知っているとのこと。実際、今の学校生活はどうですか?
あんまり関わらない副教官の先生にも「聞こえないんで、たまに聞き返したりするかもです」って、最初に会った時の授業直前とかに普通に言ってます。
耳のことだけじゃなく、性格的になんでもオープンなので緊張もなくて。
先生はどんな反応ですか?
「はい、わかりました。聞こえなかったら言ってね」って、普通の調子で言われます。
学校の健康診断で聴力検査もやるじゃないですか。あれも、でも、もう左耳聞こえにくいの分かってるから、事前に先生に言うようにしてますね。一応、両耳の検査をするけど、先生も分かってるから再検査とか精密検査してきてください、とはならないです。
他に、困ることや工夫してることはありますか?
授業は席を左側にしてるけど、テストの時は名簿順で。
今回、その名簿順の席が真ん中のほぼ一番後ろで。聞こえにくいポジション。ちょっと大丈夫かな..って思ってます。でもまぁ、しょうがないか..みたいな。意外と聞こえたりとか、あるかもしれないし。
とりあえず、一番最初のテストはそのままでやろうかな、って。聞こえなかったら言おう、って思ってます。
グループワークでも、にぎやかだと聞こえにくいことはありませんか?
「ちょっと待って、なんて言った?」みたいなのは結構あります。グループに一人くらいは仲良い人いるから「なんで?」って聞き返したり。
言い直してくれるので助かってます。聞こえる側から話しかけてくれたりも助かる。
嬉しいですよね。体育とか音楽の授業はどうですか?
陸上を小学校で習ってて。100m走のとき、ピストル鳴らす人って左側にいるじゃないですか。
大きな音だし絶対に聞こえるんだけど、自分の聞こえない側にいるから、ちゃんと聞こえるかなって心配はありました。絶対聞こえるって分かってるんだけど。
ぼーっとしてたら、他のとこから鳴ったって勘違いするな、私だったら(笑)
うん、そうそうそうそう。あと、今は空手やってます。
術後、耳に当たる格闘技系は気を付けるように言われたりしてないですか?
あんまり気にしてないかもです。習ってるところにも耳のことは伝えてあるので、耳に当たらないように先生が寸前で止めてくれたりしてます。大会は、組み手になって耳に当たることになるから出てなくて。でも、もともと組み手はそんなに好きじゃないから別に気にしてないですね。
ドッチボールなんかも、やってますね。
耳に当たったら良くないからやらない、とかじゃなく。耳に当たってもまぁ大丈夫なように。自分がリーダーで決める側になることが多くて、当たっても大丈夫なようにソフトなボールを使ったり。皆も当たったら痛いから、その方がいいし。
柔道も、傷跡が痛くて見学するときはあったけど普段はやってます。
術後の痛みがあるんですね。それはどんな感じなんでしょう。
「雨の日は傷跡が痛む」って言いますよね。私はあんな感じ。転んだときの痛みに近い感覚で、しばらく待つと治る。
音楽の授業なんかは、気になることはありますか?
良いことと言えば、パートの境目になったとき。ちょうど並び順で聞こえない左側に境目があった場合、そっち側聞こえなくて、右側に自分のパートがいるからつられずに済むから楽なんですよ。
それより、ゲームの方が困るかもです。
どういうことですか?
オンライン対戦系をよくやってて。それで、音で距離感がわかんないのが困ります。
自分がここにいて、相手はそこらへんにいるっていうのが、両耳が聞こえる人だとわかる人にはわかるんですよね。それがわかんないから。
ゲームは結構、音の距離感を測りながらやるから、片耳難聴は不便って話は聞きますね。
そうなんですよ。音で場所が分かるって難しいんらしいんですけど、できる人はできるっぽくて。すごいなーって。
勝負だから一瞬一秒も大事ですよね。
そうなんです。一応なんとかはなってるけど、自分の使ってるキャラクターが音が大事なキャラなので、不便で。まぁ、他のキャラ使えって話なんだけど(笑)
日常だと、私はそんなに音の距離感では困らない。むしろ、友達と「スマホ隠すゲーム」やってます(笑)見えないところにスマホを隠して、ヒントでスマホの音を鳴らして探すやつなんですけど。それでもあんまり耳のことは気にならない。
不利な状況だと思いますが、嫌な気持ちになったりしないですか。
いや、それを言い始めるの自分なんで(笑)意外に、ここにあったのかー!みたいな、見つけた時の達成感が楽しくて。
なるほど。楽しい気持ちの方が勝つんですね。
うんうんうん。振動とかに頼って探してます(笑)

4. 片耳難聴だからこそできること
最後に、質問です。
片耳聞こえにくいのをハンデとは感じてない、ってことでしたが、もし両耳が聞こえるようになれるなら、なりたいですか?
魔法のように聞こえるようになるなら、なりたい。席の位置とか気にせずに生活できたらなー、って。あと、ゲーム!それをすぐ試したいです。
ゲーム大事ですね(笑)逆に両耳が聞こえなくなったら、って不安に思うときもありますか?
そこまで不安は今はないなぁ。そうなったら、普通にしょうがないかな。なったことないから分かんないけど。
将来の不安も、そんなに。想像がつかないだけかもしれないけど。
大人になっても、片耳難聴だからこそ分かること、生かせることをしたいって思うし。今は、聴覚領域の言語聴覚士が少ないって聞いて、少しは自分だったら聞こえないのも理解できるかなって、目指してます。
片耳難聴だとしても、楽しいのは楽しくて、だから全然良くない?って。難聴は難聴で、皆に分かってもらえる、って思うし。そういうのがあるから、いいかな。悪い事だらけじゃ無い、って思ってます。
そうですね。これからも、楽しいのもそうじゃないのも、応援したいなぁと思いました。貴重なお話しをありがとうございました。

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