お話を伺った方のプロフィール
- 名前:ゆーさん(仮名)
- 年齢/性別:22歳/女性
- 所属:大学生
- 聴力:左耳難聴(中等度)、右耳は正常聴力
- 原因:外耳道閉鎖症(小耳症)
- 治療:耳の形成手術を行った。外耳道形成手術はしていない
- その他の症状:特になし
- 補聴器:試したが使っていない
- 自覚したとき:幼稚園の頃
- 親から伝えられたとき:幼稚園の頃
- 周りの人への開示:家族以外には伝えてない
- 配慮を受けていること:ほとんどない
- 片耳難聴の受けとめ:ネガティブ感はない
1. 親にハッキリ言って貰えてよかった
小耳症は、生まれつき耳たぶが小さかったりなかったりするものです。
ゆーさんは、いつごろ自分では小耳症がわかったのでしょうか。
幼稚園の工作で、お面を作ったときに耳に輪ゴムがかけられなくて気付いたのが最初だったと思います。
左は耳がないから引っ掛けられなくて。
「なんで、皆と違うの?」って親に聞きました。
片耳が聞こえないより、見た目で分かりやすく違うっていうことが先にありました。
尋ねたところで、親はストレートに伝えてくれました。
「あなたはそういう病気で、治るものではない。10歳になったら手術をして耳の形につくるよ」と。
そのときは、どんな気持ちだったんでしょう?
単純に、どうしてか分からないから好奇心のような気持ちで聞いたと思うんですよね。
ただ、親から伝えられた時には泣いた記憶があります。
だけど、ハッキリと伝えて貰ったのは私にとっては良かったです。
例えば「あなたの耳は特別なのよ」って伝える方もいらっしゃいますね。
お子さんに配慮して。
でも、現実を受けとめるしかないし、
誤摩化すよりはありのままを伝えて貰えて私は良かった。
親から深刻そうな感じも受けなかったのもあると思います。

2. 友達に見た目でからかわれたら嫌だな
ご自身の軟骨を使って耳の形をつくるという手術をされています。
身体が成長してからになるので10歳の頃だったそうです。
する方/しない方といらっしゃいますが、ゆーさんはどんな風に決められたんですか?
当時はするのが「当たり前」で特に考えませんでした。
10年以上前なので、親もいまほどネットで情報を調べたりもしなかったと思いますし。
手術は「小耳症の人にとっての一大イベント」くらいの気持ちだったと思います。
初診から、専門の先生に見て貰っていたのでスムーズに進みました。
こわいなー、って思ったりしませんでしたか?
私の場合は、割と気にせずに臨んでいた記憶があります。
当日も、麻酔で8時間くらい寝たのでその記憶が大きいです。
起きたら終わってました。
同じ時期に手術を受けた子は、終わった後もぐったりしていたけれど
私はすぐにご飯モリモリ食べれてました笑
幸運な手術体験だったようで。手術のときには1ヶ月入院したそうですが、学校はどうしたんですか?
冬休みと夏休みにやったので、あまり休まずにすみました。
ただ手術のときに髪の毛を剃る必要があったので、ちょっと抵抗はありました。
しばらくエクステをつけて過ごしていました。
そうですよね。お友達には、手術のことは伝えていましたか?
先生は知ってはいましたが、基本的に小耳症のことも片耳難聴のことも言っていなかったので仲の良い子にだけ伝えた程度です。
見た目でからかわれたりするのも嫌だったし、特段聞こえで不便もしていなかったので。
言わなくても支障がなかったってことですかね。それでは、耳の形成手術の術前後でなにか変わったことはありますか?
手術をするまでは、片耳がないのでマスクやメガネが出来ませんでした。
なので、マスクなら左右の紐をゴムで繋げて使ったり、
理科の実験で保護メガネをするときは、ゴーグルタイプの保護メガネがあったのでそれを使ってました。
気持ちとしては「見た目が違うことで人から心ないこと言われたら嫌だな」と思ってました。
術後は、心持ちが楽になりましたね。ちらっと見た感じではわからないので。
よく見ると耳の孔がないからわかるけど、髪の毛で隠しているのもあって気付く人はいないです。
実生活としても、マスクやメガネができるのも楽ですね。
- ・耳掛けないマスクや、顔に貼るマスクも市販されている。
・耳にかけないメガネや、頭部で固定するメガネ補助ツールも市販されている。
変化があったんですね。ちなみに、手術後に気をつけなきゃならない・注意していることはありますか?
作った耳を傷つけないように、固いところでは下にしない方が良いとは言われました。
よっぽど岩のような所でなければ大丈夫です。
武道や格闘技は、耳の骨が折れてしまうので出来ないです。
ただ、私自身は中学校の柔道には参加しました。大したことをしないので..。
ゆーさんは、耳の穴が無いという「外耳道閉鎖症」でもあるそうです。これは、外耳道と鼓膜がないため聞こえにくさがあるんですよね。両耳になるケースもありますが、ゆーさんは片耳。
これも手術をする/しないの選択があったかと思うのですが、どのように考えたんでしょうか。
成功の確率が50:50と聞いていたので、そこまではしなくていいかなと思っています。
生まれつきの「片耳ライフ」なので、聞こえないのが自然なことですし。
困ることと言えば、耳の孔がないと、イヤホンができないこと。
でも、例えば大学入試の英語のリスニングのときは
自分でヘッドホンの利用を大学側に申請して受けられたので問題ありませんでした。(詳しくは「合理的配慮」について)

3. 聞こえにくさは自分で動いて解決
ゆーさんにとっては、小耳症という「(人と異なる)見た目問題」が先にありました。片耳が聞こえにくい点では、どんな経験をされてきましたか?
聞こえに自分の意識が向いたのは、耳介の形成手術をして、見た目が気にならなくなってからだったと思います。
ただ、学校ではあまり困らなくて。
困り感を強く感じたのは、難聴側でコソコソ話が聞こえないくらいかも知れない。
中等度の難聴というのと、生まれつき聞こえないのが当たり前だからかも知れません。
難聴側の聞こえのイメージとしては、クラクションのような大きな音には気付きます。
静かな家の中では、TVがついていたら言葉は聞き取れなくても
ザワザワ音がしているのは分かってこそばゆい感じがします。
じゃあ、特に配慮も求めずでしたか?
先生には、入学前の相談や健康診断で伝えましたが、 自分からは配慮を求めなかったです。
特別扱いみたいにされなかったのは良かったです。
子どもの頃って敏感さがあるから「自分は人と違うんだ」と
余計なコンプレックス感を強めてしまったと思うので。
言わないけれど、自分で工夫していたことはありますか?
自分のキャラクターが積極的な方なので、
人に配慮を求めなくても、自分で動いて解決する方策でやれていました。
例えば、席替えは、班長が話し合いで決めるシステムだったので、
班長に立候補して自分が聞こえやすいポジションを確保できるようにしたり笑
主導権や決定権を握って、人知れず自分にとって良い環境を作るようになっていたんですね。

4. 聞き返しも、話の中の一つのアクション
先天性の片耳難聴の方も、大人になりコミュニティの変化とともにネックを感じるようになる人も多いですが、ゆーさんはどうでしょうか。
確かに、バイトで接客業をしていると「すみません」と声をかけられても
「どこ?」って発信源が分からなくなるのは不便ですね。(詳細「片耳難聴が聞こえにくい理由」)
そうなると補聴器などで補った方が良いのか…とも考えて、
2017年に軟骨伝導の補聴器がリリースされたので試しました。
つけたり外したりできる利点、個人差がありますが私は音の方向感もあがると感じました。
補聴器をつけたことで「聞こえていないんだ」と可視化された感じもありました。
でも結局、聞こえる耳からは生の音、聞こえない耳からは機械を通した音が入ってくる…
それが気持ち悪い感じが私はして。
つけない方が快適に過ごせると思ったので見送りました。
あと、聞こえを補うというところだと
「骨伝導ヘッドホン」を使って好きな音楽を楽しんでいます。
私は伝音難聴なので、聞こえない方の耳も骨導を使うと聞こえるので。
ちょっと高いものを使っていますがクリアに聞こえる気がします。(伝音難聴について詳細は「耳・聞こえの仕組み」)
友達に言わないのは、そのままですか?
そうですね、言っていないです。
たまに聞こえていなくて「左耳、聞こえてないの?」と言われたときには、「そうなんだー」とは言うけど。
その人も、気にしてはないし覚えてるかも分からない(笑)
やっぱり、ここまで言わずに来ましたし、わざわざ話す必要はないかなと。
言わなくても生活できているし、言ったところで何が変わるかピンと来ないです。
私は、言う言わないのメリット/デメリットを考えて、言う派なんです。なので、言わないで過ごせているのはすごいな…と、自分だったら上手くやれる気がしなくて..。秘訣のようなものってありますか?
生まれつき聞こえないのが当たり前だから、聞こえに対しても本能的に対応してるんだと思います。
印象的だったことがあって。
友達に大人になってから片耳難聴になった人がいるのですが、
その人と比べると私の聞こえなさに対する反応や所作は、小さい気がしました。
ごくナチュラルな感じなんですね。それでも、日々聞こえない場面って度々あるじゃないですか。
友達関係なら、聞こえなくてもなんとなく雰囲気で返事をしてますね。
顔の表情から様子を読み取ってるので、メガネを外すと耳まで悪くなるように感じます。
たしかに…!雰囲気・顔の表情で補完しますね。
あとは、よくある聞こえやすいポジションですが、人には言わずにGETするために自分が先頭を切って我先にお店とかに入ります。足が速いです(笑)
もしそれが出来ずに、居酒屋とかで聞こえないポジになっちゃったら前の子と喋って、難聴側の人とあまり話さなくて済むようにしてます。
それでも話さざるを得ないときは、身体を捻るんですけど(笑)
お酒はいってきたタイミングで、なんとなしに席替えして安定のポジションを取ります。
仲の良い友達なら、「○○(誰々)の隣がいいー」とかって、相手をどかしたりも出来ちゃうタイプです。
そういうときに、ちょっとしたストレスはかからないものですか?
聞こえてなくて「いまどっかに意識飛んでたね」とか、もともとの雰囲気もあって「こわい人かと思った」と言われることもあるけど、あまり気にならないですね(笑)性格的にサバサバタイプなので。
「ごめん、聞いてなかった」とか「イヤホンしてたー」って言ったりします。
聞こえない方から話しかけられてもなんとも思わないですね。
聞き返しもストレスにはならないです。話の中の一つのアクションであって。
「聞き返すのが話の中の自然動作として組み込まれてる」っていうのは新鮮な表現です。家庭でも同じような感じでしょうか?
はい、何か配慮されてる感じはないですね。
まぁ、家は静かで狭い環境というものありますが。
親とそのことを話したりもしないです。
兄弟とは「片方イヤホン壊れたから、あげるよー、使えるでしょ」なんてやりとりがあるくらい。ふつうな感じです。
私の場合は、そんなに気にせず過ごせているのでそれで構いません。
その辺りは、人によりますよね。ゆーさんは「分かって欲しいな」って気持ちもあまりなさそうにも感じます。
分かって欲しいとは思わないし、
他人の状況や気持ちを本当にはわかるものでもないですよね。
人って、そういうもんじゃん、と。
そうですね。では今後、人に伝えることはなさそう?
仕事をする上で、必要ならば話します。
これから就職活動をするにあたって一応、大学のキャリアセンターにも相談をしたんですよね。
開示した方がいいのか、するならどのタイミングでしたら良いか等。
そこでは、こちらが思うよりライトな返答で
「エントリー時から伝えなくても、(入社前などに提出する)健康診断書に書いて、聞かれたら話せば良い」と私の場合は言われました。
実際に就職した後も、どう伝えるか・誰に伝えるかなどもまずは上司に判断を仰げばいいと思ってます。
恋人や結婚してずっと一緒にいることになるができたら、話すんじゃないでしょうか。
小耳症と外耳道閉鎖に伴う片耳難聴は、自分をつくっている前提のようなものなので。

参考情報
- 一般社団法人日本形成学会「小耳症」
- 一般社団法人日本耳鼻咽喉科学会「軟骨伝導補聴器」
- NPO法人マイフェイス・マイスタイル(「見た目問題」について)