町田也真人選手スペシャルインタビュー「ポジティブに生きていけば周りも巻き込める」

2019年12月11日 − Written by きこいろ編集部

サッカーのこと、コミュニケーションのこと

話に耳を傾ける町田選手

サッカーを始めたのは何歳のときですか?

クラブに入ったのは年中のときからで、ちゃんと少年団に入ったのが小三かな?

耳のことが分かるよりも前の段階で始めていたのですね?

始めていましたね。

子どもの頃からずっとサッカーを続けていて、耳に対して思っていること、感じていることなどが変化したりはしましたか?

そういえば、高校のときに補聴器をつけようかという話に一度なったんです。「もっと聞こえるんじゃない?」と母から言われて。障害があると費用が助成されるらしいとも調べてくれて。でも、片耳難聴の場合は認定にならないと分かって、結局使いませんでした。なくてもいいかなと思うので。

聞こえないことに対してネガティブになった経験はほとんどないんです。あまり仲の良くない友達の言っていることが聞こえなくて、「えっ?」って三回くらい聞き返して、相手に「あ、もう大丈夫」みたいな冷たい反応をされたときはキツいな…と思ったこともありましたけど。それくらいですかね。

いい意味で、それほど耳のことを意識することなくサッカーのほうも続けられてきた感じなのですね?

そうですね。「さっき、すごい呼ばれてたよ」とかはあるんですけど。「まじ!?」みたいな(笑)

監督が呼んでいたのに気付いていなかったとか(笑)

ありましたね(笑)

近しい人には早い段階で耳のことを話すと言われていましたが、チームが変わったり、環境が変わったりしたときは「こうしよう」みたいなことはありますか?

特にはないんですけど、アップでジョギングをするときはやっぱり人を聞こえる左側に置きたいです。たとえば最初にアウトコースを走っていて、逆回りになったらインコースに入っていくみたいな(笑)

チームメイトと親しくなるとやっぱり一緒にいることが多くなるので、早めに伝えます。「ちょっと右耳聞こえないんだよね」「あ、マジ?」みたいな感じで。そうすると4人とかで食事に行って、誰かに右側に座られても「ちょいちょいちょい!」みたいな感じに言えば「あ、そうか」って気付いてくれるので。

そのあたり、プレッシャーなどは感じずに言えますか?

はい。言わないと自分が損するというか、「シカトしてる」みたいに思われたら嫌なので。親しくない人や、初対面の方と数人で食事に行って、右側に座られたら「右が聞こえないので大きな声で喋ってもらえますか?」とか「聞こえていなかったら肩をトントンしてください」って先に言います。「シカトじゃないんです!」って。

そういう伝え方だと爽やかですね。

そうですね、そっちのほうがいいかなって思っているんで。

サッカーの場合、ピッチで自分の聞こえないサイドから監督が指示を出したり、選手同士でプレー中にコミュニケーションしなければならないこともあるかと思います。実際にそういう場面で困られたことは?

試合中は歓声で「ワアアア」ってなっているので、(難聴者に限らず)ほとんど何も聞こえないものなんですよ。だから、本当に伝えたいことがあったら、ボールがピッチから出たタイミングとかで自分で相手に近寄って、耳元で話したりします。ただ、緊急の指示とかは僕がそっち側に振り返っていたら聞こえるんですけど、気付かなくて「あ、ごめん!」みたいになることは時々あります。

僕も片耳難聴なので、フットサルなどに誘われてもちょっと抵抗があるんですが、意外と大丈夫な感じなんですね?

全然大丈夫ですよ! サッカーは状況が目まぐるしく変わるし、なるべく首を振って周囲を見渡すようにというか、どこに敵がいて、どこに味方がいるかを常に見るようにすれば。それが自分の持ち味になったのは、もしかしたら耳のおかげもあるかもしれないですね。

10番的な視野の広さは耳のことも関係していると?

そうですね。自分の視野が広いかどうは分からないですけど、周りを見ようという意識はもしかしたら耳のことが大きいのかなとは思います。

聞こえる側と聞こえない側でプレー感覚が多少変わったりはしますか?

それは感じたことはないですね。

どちらでもべつに大丈夫だと。

そうですね。まあでも、いろいろ思い返してみると、たまに相手が来ていることに気付かないときがあって、それは僕だけじゃなくて選手ならあることなんですけど、よく考えたら右側からサッと持っていかれるシーンは多かったかな? と思ったりはします。

少年団の時代なども含めて、他に片耳難聴のプレーヤーに出会ったことはありますか?

ないですね。「自分も聞こえづらかった」っていう人はツイートをしてからいたんですけど。

今まで出会った選手の数は少なくないと思いますが、確率的にはどうでしょうね。片耳難聴者は1,000人に1人くらいは絶対に…
(岡野)1,000人に3人くらいの割合いるんじゃないかなと。

そんなにいるんですね!

驚く町田選手

日常生活と耳のこと

ジョギングのときは聞こえる側に立つというお話がありましたが、サッカーや私生活で他になにか工夫されていることはありますか?

そうですね、まず自分が右側に立つこと。これはけっこうマストですね。ジョギングをしていて、隣を走ってる人に右側に行かれたら自分からそっち側に移るっていう謎の行動をします(笑)

ポジション取りは重要ですよね(笑)

マストですね。それと、工夫じゃないんですけど、たとえば食事のときにもし右側に来られてしまったら、もう体ごとそっちに向いてしまいます。だから左側の人は(背中を向けられて)おいおい、みたいな感じになっていると思うんですけど(笑)。工夫はそれくらいですかね。

ツイートでも言ったかもしれないですけど、話しかけられるときに肩を「トントン」されるのは自分から振り向けるのでいいんですよ。トントンもされずに、聞こえない側にこうやって(耳に口を近付けられて)ひそひそ話をされたときに「ちょっと待って、こっち側で話して」「え、何で?」みたいになることはけっこうありましたね。

ご自宅にいるときや、ご家族で一緒にお出かけされたりするときは?

家族は本当に分かってくれているので。奥さんも右側に立っちゃったら「ごめん」ってすぐに移動してくれたりとか。最初の頃だけで、今はないですけど。

今はもう「完璧」みたいな?(笑)

完璧です(笑)。すぐにここの定位置に来る、みたいな感じですね。そういえば、「男の人は道路側を歩くべき」みたいな慣習ってあるじゃないですか。でも道路側を歩けない場合もあるし、そういうときは「ちょっとごめん」って言ったりとかはありましたね。

片耳が聞こえないということを、 一日の中でどれくらい意識していますか? まったく意識しない日ももちろんあると思いますが。

たとえば、マッサージを受けるときはうつぶせになるんですが、聞こえるほうを上にして、話しかけられても常に対応できるように気を遣ったりしますね。それ以外はあまりないですけど、やっぱり右側から話しかけられているときはちょっと気になります。「聞かなきゃ」って敏感になって、気を張るときは多いかもしれないです。

それでストレスを感じたりとか、お疲れになったりするときも?

ときにはありますね。相手が親しい人だったらいいんですけど、親しくない人のときにはやっぱり。「疲れた」とは自分の中で思ったことはないですけど、もしかしたら心身にはきているのかもしれないですね。

「なにか社会に対してできることを」というお話をされていましたが、こういう活動をしてみたいなどはありますか?

僕は子どもが好きなんですが、今年から浦和でサッカースクールを自分が代表というかたちで始めたんです。それも含め、自分ができる活動があるなら少しでもやりたいなと。

もちろんプロサッカー選手としての活動が第一なんですけど、サッカーに支障がなければやりたいとずっと思っていました。今回、自分が片耳難聴だと発表したのも、その活動のひとつとしてで。あとは、自分は背が小さいので、それに絡めたことでも何かできればいいなと。何ができるかは分からないですけど(笑)、考えたいと思っています。

ツイートしてみて色々な発見がありましたし、オフシーズンは少しでも色々な人に会う時間と、家族との時間と、うまく併用しながらできればいいなと思っています。その中で今日、こういうインビューがあったので僕も有難いなと思っています。

ありがとうございます! ご出身は浦和ですが、今お住まいの街についてはいかがですか?

チームを最大限に応援してくれる土地なので、やっぱりどこのお店に行っても「あっ、頑張ってね」とか。レジの人がぼそっと「頑張ってね」って、全然気付いている素振りじゃなかったのに言ってくれたり(笑)、どこを歩いていても何か声をかけてもらえたり。地域で応援してもらっているなあっていうのは本当に伝わってきますね。

「影響を受けた人との出会い、そしてターニングポイント」

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