APD(聴覚情報処理障害)× 片耳難聴 コラボ交流会【初】イベントレポート

2021年11月8日 − Written by きこいろ編集部

APD(えーぴーでぃー:Auditory Processing Disorder)当事者会さんと、コラボ企画として交流会を行いました。

開催概要

  • 2021/10/24(日)@Zoom
  • 参加者
    -片耳難聴 当事者:10名
    -APD(未診断含む)当事者 :10名
    -両側難聴 当事者:1名
    -周りの方(家族、支援関係者、友人知人など):9名

■前半:ミニレクチャー&エピソード発表

それぞれの「聞こえにくさ」について知らない方も多く、
はじめに、片耳難聴とAPDの知識をインプットする時間と、
代表して1名ずつ体験談を紹介し、質疑応答を行う時間を設けました。

聞こえる ↔ 聞こえない だけじゃない

「耳が聞こえない」というと、両耳がまったく聞こえない方や、手話、補聴器をイメージされる方も多いかもしれません。「障害者手帳」を持っているというイメージもあるかもしれません(詳細:「福祉制度」)。

実際には、障害者手帳を持たなくても「聞こえにくさ」のある人は、たくさんいます。また、両耳が聞こえなくても、全員が手話や補聴器を使っているものでもありません。

一見分からなくても、聞こえだけでなく、見え方、感じ方などなど様々な個人差があるのです。

きこいろ作成資料より

APDとは?

聞き取りにくさの程度は、個人差がありますが、
「雑音の中で、聞き取れない」など、片耳難聴とも苦手な場面が似ています(詳細「片耳難聴だと困る場面」)。

片耳難聴との違いでは、「通常の聴覚検査では、異常がない」点があります。

当日資料:APD当事者会さんより提供

APD会さんに「自分もAPDかも」と訪れる方の中には、
聴覚検査をしてみたら軽度の難聴や片耳難聴が見つかったというケースもあるようです。
自己判断ではなく、病院で検査を受けることが適切な対応のために大切です。


APDの背景要因

難聴とは、音が耳に入ってから脳に伝わるまでのどこかの段階で障害が生じるものです。
つまり、音は、耳だけで聞いているのではなく、「脳で情報処理が行われることで言葉として理解」することができます。(詳細:「耳・聞こえのしくみ」

APDの背景要因は様々ですが、その「脳のはたらき」の部分に偏りがあるなどによって、APDは聞こえにくさが生じると現時点では考えられています。

当日資料:APD当事者会さんより提供

聞き取りに必要な脳のはたらき

  • 注意力・集中力(選択的注意、持続的注意、分配的注意、注意の転換)
  • ワーキングメモリ(作業記憶:音情報を一時的に記憶する)
  • 語彙力(言葉の知識)
  • 推測力(前後の文脈から意味を理解)

APDのある人だけでなく、脳のはたらき(情報処理や認知機能)は、大なり小なり特性や得手不得手があるものです。


  • ●発達障害とは
    APDの背景要因として多いと言われている発達障害。
    生まれつきの「脳の働き方の違い」により、幼児のうちから行動面や情緒面に特徴がある状態。
    主に、自閉症スペクトラム(ASD)、注意欠如・多動(ADHD)、学習障害(LD)、トゥレット症候群、
  • 吃音症などがある。
    これらの特徴が少しずつ重なり合っている場合もある。年齢や環境によっても目立つ症状が変わることもある。
    詳細:発達障害情報・支援センター

APDのある人と関わるときの工夫

APD当事者の方に周りの人ができるサポートは、主に以下のようなものがあります。

  • 雑音の少ない場所で話す
  • ゆっくり、はっきり、短く区切って話す
  • 大事なことは、テキスト(文字)で伝える
  • 口元が見えるように話す

片耳難聴とも共通する部分もありますが、
片耳難聴の場合は、「聞こえる側で聞くようにする/聞こえる側で話してもらえれば、聞き取りやすくなる」 といった点で違いがあります。

■後半:グループでの交流タイム

話題の一部を紹介します。

周りの人に伝えている?

●伝えている人の場合の例
<APD>
伝えているが、「APDで」ではなく「耳が聞こえにくくて」等と言っている。
<片耳難聴>
普段関わる人に伝えていて、「聞こえやすい側に座らせてください」等と言っている。

●伝えていない人の場合の例
<APD>
発達障害もあるため、伝えると周りからよく思われないのではないかと不安。
<片耳難聴>
以前、伝えて嫌な思いをしたことがあるため、伝えなくなってしまった。

どんな工夫をしている?

周りの人に
<APD>
電話が聞き取りにくいので、業務から外してもらっている。
<片耳難聴>
最近はマスク越しで聞こえにくいため、大きめの声で話してもらっている。

●自分自身で
<APD>
会議で、UDトークで文字に起こしたり、ボイスレコーダーで録音して聞き返せるようにする。
<片耳難聴>
さりげなく聞こえる側の位置を確保したり、移動するタイミングで変わる。

きこいろ作成のリーフレット

感想

一部を紹介します。

APDの方から

  • APDの方は、発達障害をお持ちの方が多くて、コミュ障の場合も多いので、話題を振ってくださって有難かったです!
  • 聴覚過敏があったり、発達障害の特性もあり突然のことに驚くので、
    会の途中でのスマホが鳴ったり、休憩中にBGMはやめてほしいです。
  • 当事者の意見を聞くと、色々と共通点が多く、おもしろかったです。

片耳難聴の方から

  • APDの存在を全く知らなかったため、
    初めは片耳難聴の自分も該当するのかなと思っていましたが、
    症状や当事者の方から話を聞いて、
    背景の違いによって似ている症状が出るということを正しく知ることができて良かった。
  • 聞こえにくさで困ることがあるのは、同じようだけれど
    それぞれの困りごとや気持ちを、完全にわかることは難しいし、だから知ろうとしたいなと改めて思った。
  • APDについて、ほとんど知らなかったため、
    「こんな特徴がある方もいるよ」ということを知るきっかけとなり、
    どうすれば過ごしやすくなるかを考えるよい機会ともなった。

APDに関する参考文献

企画協力:APD当事者会

▼ホームページ
https://apd-peer.jimdofree.com/
APD症状で困難や苦労、悩みを抱える当事者が集まりつながる会。
これまで当事者の集まる場がなかったことをきっかけに、2018年6月発足。
ゆるいつながりを通して人生がより良い方向へ進むきっかけとなること、
また、APDを広く知ってもらうこと、当事者のAPD症状が少しでも改善しより良い生活につながることを目指し活動をしている。

APDマーク:公式サイトより

企画した理由

近年、APDについて、メディアでも取り上げられるようになりましたが、事前にきこいろのTwitterアカウント上で取った簡易アンケートでは「初めて知った」という人が59%(72人)でした。

片耳難聴という、聞こえ方に比較的関心の高いと思われる層が多いアカウントのフォロワーでも、知らない人が多いことが伺えます。

片耳難聴当事者としても、これまで自分たちの聞こえに関する情報を得られなかったり、
片耳難聴当事者同士が話す機会もありませんでしたが、

さらには、片耳難聴以外の聴覚障害に関する情報を知らなかったり、
片耳難聴以外の聞こえにくい人に会う機会がない人も多い現状がありました。

片耳難聴にとどまらず、様々な聞こえの特性や、
聞こえだけでなく多様な人の特性を知り合うことが
片耳難聴当事者にとっても、助けやヒントになったり、
ひいては、自分たち以外の人にとっても過ごしやすい環境をつくっていくために大切なのではないか、と考えています。

運営側も、初めてのコラボ企画で至らない点がありましたが
ご参加いただいた皆さん、ご協力ありがとうございました。

今後も試みを続けていきたいと思っています。

「聞こえ方は、いろいろ」略して「きこいろ」。
「聞こえの多様性」ある社会であることを願って。

企画主催:きこいろ

▼ホームページ
https://kikoiro.com/
2019年に発足した日本で初めての片耳難聴(一側性難聴)の当事者を中心とした任意団体。きこいろ 片耳難聴のコミュニティ。片耳難聴に関する情報発信、交流会や勉強会、啓発活動などを行う。聞こえ方は、いろいろ。略して、きこいろ。聞こえと人の多様性ある社会を願い活動している。
▼毎月、交流会や勉強会を開催中
交流会:https://kikoiro.com/about/cafe/
勉強会:https://kikoiro.com/about/lecture/

著者紹介