難聴と遺伝子の関係
“遺伝子” は体の設計図で、「遺伝子検査」はその設計図を調べるための検査です。
難聴の背景を理解し、今後の医療や支援に役立てることを目的としています。
(誰からの “遺伝” かを調べることを目的とした検査ではありません)
20世紀以前は、生まれつき聞こえない子どもの難聴の大半は原因不明でしたが、
この20年ほどの間に「難聴の遺伝子」についての研究が急速にすすんできています。
先天性両側高度難聴(生まれつき、両方の耳が70dB以上きこえにくい・きこえない)の赤ちゃんは、1000人に1~1.5人の割合で生まれます。
その中の70%弱に難聴遺伝子の関与があることが現時点ではわかっています。
- *難聴遺伝子以外の原因
難聴の原因は、遺伝子だけではない。 - 染色体異常・ウイルス性難聴(約10%が先天性サイトメガロウイルスによる難聴)、妊娠初期にお母さんが風疹に感染したことによる先天性風疹症候群、そのほか内耳奇形や外耳、中耳奇形などだが、原因不明も1割以上ある。
片耳難聴と難聴遺伝子
現在の時点では、片耳難聴に限られる難聴遺伝子の情報はありません。
また、筆者の周囲の片耳難聴児者で遺伝子検査を受けたという事例はほとんどありません。
筆者自身の片耳難聴も就学時にわかりましたが、原因は不明のままです。
なお、先天性で片耳が高度難聴(70dB以上)のお子さんは、1000人に1~2人。
その保護者の方は「両耳が聞こえる方が9割以上」です。
片耳難聴の原因

・上記の表内の「遺伝子疾患」とは、難聴遺伝子を限定したものではありません。
・ 「奇形」とは、耳介・外耳道・中耳・蝸牛・聴神経など広い範囲が対象で、伝音難聴・感音難聴(混合を含む)など様々な状態になります。
・内耳の奇形や聴神経低形成などは、画像診断(CT、MRI)でわかる場合も多くあります。

- 伝音難聴(外耳や中耳に障害):治療ができるものもある。
- 感音難聴(内耳、蝸牛または聴神経などに障害):大半は、現在の医療では治療法は確立されていない。
治療が確立されていない場合も、現状から悪化することや両耳難聴に移行することは多くありません。
遺伝に関する用語の説明
・染色体
ヒトには、性染色体以外の染色体は2つずつあり、父親から1つ、母親から1つ受け継ぎます。
・顕性(けんせい)遺伝
昔は「優性遺伝」と言いました。
父親から1つ、母親から1つ受け継いだ遺伝子のうち、どちらか1つだけでも難聴遺伝子が含まれていると、難聴が発現するタイプです。難聴遺伝子の2割程度です。
・潜性(せんせい)遺伝
昔は「劣性遺伝」と言いました。
父親と母親、受け継いだ遺伝子のどちらにも難聴遺伝子が含まれているときだけ、難聴が発現するタイプです。
例えば、父親からは難聴遺伝子を受け継いでいても、母親からはなかった場合の赤ちゃんは、聴力正常です。難聴遺伝子の7割以上がこのタイプです。
親子全員「きこえる」場合でも、誰かが潜性の難聴遺伝子をもっている、ということもよくあるのですが、気づかれることはほとんどありません。

数はすくないですが、以下のようなタイプの遺伝もあります。
・X連鎖遺伝
性染色体のX染色体上の遺伝子変化で難聴が生じます。
・ミトコンドリア遺伝
細胞内のミトコンドリアという小器官の中の遺伝子変化で難聴が生じます。母親のみの由来です。
難聴遺伝子検査
現在、難聴の遺伝子は120種類ほど報告されています。
先天性難聴の遺伝子診断は2012年から健康保険の対象となり,2022年の段階では50遺伝子1135変異の解析が可能となっています。
ただ、原因遺伝子が判明する割合は4割程度にとどまっています。
どこの耳鼻科でもできる検査ではなく、遺伝子検査が可能な病院は限定されています。
検査は、血液を採取して行います。
難聴のある本人・子どもの場合は、子どもと両親の採血が基本になりますが、難聴の原因が他にある場合には受ける必要はありません。
また、両耳の聴力が正常な場合は受けることができません。
保険収載の検査では数の限りがあるので、信州大学を中心に共同研究が行われ、2022年に全国から収集された10,045検体について63遺伝子の解析を行った研究結果の報告もなされています。今後も検査の精度や同定される遺伝子変異については、日々変わっていくことが予想されます。
検査に当たっては、耳鼻咽喉科医からは難聴に関する情報を、
臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーからは遺伝学的事項を分担して説明をうけます。
得られる情報
検査を受けることがその子どもや家族の幸せやベネフィットに繋がらなければいけません。
検査によって以下についての情報が得られます。
ただし、検査を受けた全ての人がどの項目もわかるわけではありません。
・耳のどこに原因があるか
例:日本人の先天性難聴で最も多いGJB2遺伝子変異があると、蝸牛内の内リンパ液のカリウムイオンの維持に障害が起こるので、感音難聴(内耳性)になる。

・難聴の特徴と、今後の聴力はどうなるか
例:SLC26A4遺伝子変異の中には、思春期にかけて聴力が低下する予測がつく例がある。
従って、聴力が最重度ではない段階でも人工内耳装用を選択することが候補となる。
他に、症候性難聴といって、聴覚以外の疾患や障害と合わさる可能性についても示唆されることがある。
・聴力が低下することの予防
例:SLC26A4遺伝子変異の中には、頭に衝撃を受けると急に聴力が下がる場合がある。柔道やラグビーなどのスポーツは避けることが予防に繋がる。
ミトコンドリア遺伝子変異の中には、アミノ配糖体抗菌薬の投与で難聴がひどくなる例があるので、「お薬手帳」などにあらかじめそうした薬は避けることを書いておく。
・難聴の遺伝と遺伝形式
顕性・潜性・母系など。
・自分に合う補聴機器(補聴器・人工内耳)への助言
例:SLC26A4遺伝子変異の場合、思春期にかけて聴力がさがることが予想されるため、現時点では人工内耳手術の適応基準である両耳90dB以上を満たしていなくても、早めに手術をすることがある。

遺伝子カウンセリング
遺伝子検査から受け取る情報は、究極の個人情報です。
実施前から、検査の目的や方法、精度や限界、結果の開示方法などに十分な説明と同意が必要になります。
結果の説明に際しても、十分なカウンセリングとその後のフォローアップが必要です。
日本では、「臨床遺伝専門医・認定遺伝カウンセラー」という資格をもった医師がこれを担当します。
病院によって対応は異なりますが、
事前には、遺伝子検査の内容やそれによりどのようなことがわかるのかについて説明があります。
事後には、遺伝子検査の結果とその医学、医療、家系における意義および心理社会的支援になどの説明があります。

知識として知っておくことと、検査を受けることで子どもや家族にとって有益な情報になること、
子どもの場合であれば、その子どもの一生だけでなく子どもが成人後に自分の子どもや孫のことを考えるまでの時間軸を想像すること、いろいろな視野から考えた上での判断が必要になる時代だと思います。
- *引用元・参考文献
「聴覚障害学第3版」 医学書院
「新生児・幼小児の難聴-遺伝子診断から人工内耳手術,療育・教育まで-」診断と治療社 - (*図・イラスト:和田萌 京都光華女子大 言語聴覚専攻3年生)
片耳難聴とは
- 片耳は正常聴力。
もう一方の耳に、軽度~重度(聞こえにくい~聞こえない)の難聴がある状態。 - 医学的診断名では「一側性難聴」「一側聾/片側聾」。
きこいろでは、当事者以外にも馴染みやすい総称として「片耳難聴」を使用。 - 少なくとも全国に36万人以上がいると推定(きこいろ調べ)。
きこいろとは
- きこいろとは
2019年発足、日本で初めての片耳難聴の当事者や専門家を中心とした、全国規模の任意団体(PJメンバープロフィール)。 - 「聞こえ方は、いろいろ」略して「きこいろ」。
- 片耳難聴に関する情報発信、交流会や勉強会、啓発活動、個別相談などをボランティアで行っている。
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