【取材レポート】視聴者100万人! NHK Eテレ番組

2020年5月24日 − Written by 麻野 美和

「ろうを生きる、難聴を生きる」 をご覧いただいた方、ありがとうございました!番組のご感想をお待ちしています!
この番組をきっかけに、片耳難聴のことやコミュニティの存在を知ってもらうきっかけになれば幸いです。

  • 初回放送 2020年3月28日(土)20時45分~21時00分
  • 放映ダイジェスト 番組HP掲載より


この記事では、片耳難聴やきこいろのことがより伝わるように、番組ではお伝えしきれなかった補足や取材の裏側をお送りします!


  • 注:番組視聴率平均約100万人(NHKより)

解説1. ステレオってなに?

番組冒頭で「オンラインでの語らい」のシーンがありました(「片耳難聴Cafe」のこと。詳しくはこちら

オンラインビデオ通話アプリzoomを使った片耳難聴Cafeの様子
開催のイメージ(写真は3月オンラインによる片耳難聴Cafe)

ここで「音楽が趣味だったが、片耳が聞こえなくなりステレオ感が得られなくなって残念」と男性が話すエピソードがありました。この方は、10年前に片耳難聴になったそうです。

ステレオとは、収録した音源を二つのチャンネルに振り分けて再生する方法。左右のイヤホンで聞くと、それぞれで異なる音が再生されるもの。また、片耳のみで聞くと音の方向感を測れないため、立体的な感覚が得られにくくなるのです。

あったものがなくなるって、切ないだろうなと思います。

一方、他の参加者で生まれつきの片耳難聴の方は「ステレオってどんな感じなんだろう??」という反応でした。

先天性の片耳難聴ではステレオの音を聞いたことがないし、片耳難聴歴が長くなってくると、聞いたことがあっても感覚から遠くなっていきます。
参加者の男性も「音楽は片耳でも普通に楽しんでいたから、ステレオでないとそんなに違いがあるのかとびっくりした」と話していました。

ヘッドホン

一口に「片耳難聴」と言っても、様々であることが分かるシーンでした。「あるある」という共感と、「そういうこともあるんだ」という多様さを共有できるのが片耳難聴Cafeです。

また、きこいろの運営メンバーには、片耳難聴と音楽を楽しみたいと活動している人もいます。

メンバー紹介:辻 慎也
長崎県出身。上智大学大学院博士後期課程理工学専攻。武蔵野音楽大学大学院修士課程ピアノ専攻修了。難聴者音楽感受研究所研究協力員。「片耳難聴における音楽の感受・音楽活動への影響」をテーマに研究を行う。物心つく前からの片耳難聴。

解説2. 二回目の対面ミーティングでした

取材があったこの日は、全国各地にいる運営メンバーが集まりました。

運営メンバーは、それぞれ仕事の傍らで活動しているため、皆が集まるのは貴重な時間です。普段は、オンラインのコミュニケーションツールでやりとりを進めたり、イベントやサイト記事用の取材の際に、限られたメンバーで対面します。

きこいろ運営メンバー集合写真
全体で集まるのは団体化してから2回目..!

この日も、現地参加が難しかったメンバーはオンライン参加。ミーティングの後にも、参加できなかったメンバーと情報を共有しコメントをもらっています。

メンバー紹介:みずな
イラストレーター。武蔵野美術大卒。普段はとある印刷会社にて勤務。人が和むような作品を目指して創作活動を行う。アトリエサーカスにて作品展示中。きこいろではロゴマークやイラスト、グッズ企画などを担当。生まれつきの左耳難聴。

メンバー紹介:瀬川勝盛
片耳難聴を持つお子さんのいる家族。現在、大阪大学准教授。基礎医学、生命科学研究者。子どもが原因不明の片耳難聴となったことをきっかけに、難聴者のための活動や、自身でも難聴の研究に取り組みたいと考えている。(近日「難聴の医療研究ニュース」公開予定)

運営メンバー以外のきこいろ会員メンバーからも、随時コメント・定期的に活動報告とご意見フォームを設けてニーズを聞けるようにしています。

オンラインミーティング

きこいろの構想を初めて1年。活動を始める前にはお互い知らない人ばかりで、普段の生活環境も仕事も様々です。

でも、「片耳難聴」という共通点で集まった私たち。片耳難聴のある人にとって、そしてその周りの人たちにとってより良い方向に進むための活動とはなにか、カメラが入っていることを半ば忘れ、議論は白熱しました。

取材を受ける前川さん
取材を受ける前川さん

番組中には入りきりませんでしたが、ミーティング後には個々への取材も行って頂きました。
運営メンバーのお一人、前川さんは「自身の片耳難聴という体験を通して、異なるひととひと同士の共生を考えていきたい」と語りました。

メンバー紹介:前川あずささん
1996年生まれ。聖心女子大学文学部哲学科卒。人事・給与業務のアウトソーシング企業勤務。哲学の視点から物事を捉えた執筆活動も行うライター。生まれつき右耳難聴。

解説3. 聞こえない側が被ります

きこいろの運営メンバーは、ほとんどが片耳難聴の本人。
となると、難聴側が同じ人がいるので、移動中や席の位置は誰かが聞こえにくいポジションになるときがあります。

ミーティングの風景
真ん中になると難聴側が聞こえにくくなる

だから集まるときは、なるべくストレスなく話せる静かな場所を選んだり、「聞こえる側を譲りますね」なんて会話が交わされます。

騒音のある電車の中なら、聞こえるペア(右耳難聴・左耳難聴)で話すか、同じ側の難聴なら向き合って話すか・皆で話したいときは円形になっています笑。

そして、私たち片耳難聴の当事者同士だとしても「どっちだっけ?」となります笑。お互いすんなり「こっちです」となりますが、覚えようと自分と同じ側か・反対側かを意識したり、それでもうっかり聞こえない側から話して「あ、ごめんなさい」と思ったり。

番組では、そんな難聴あるあるを解決するプロダクトを開発しているきこいろの運営メンバー高木くんを取材。

メンバー紹介:高木 健
自身が片耳が聞こえず、生活に不便さを感じたのをきっかけに開発を始めたメガネ型デバイス「asEars」。現在は、デバイスのユーザテストを実施中。きこいろでは、片耳難聴にも活用できるデバイスやテクノロジーの情報提供・記事執筆を主に担う(「骨伝導イヤホン・ワイヤレスイヤホン」公開予定)

これは、装着者の聞こえない側の耳に入ってくる音を聞こえる側の耳に伝え、周りの音が聞こえやすくなるものです。

取材では、車通りの多い通り道や焼肉店といった、日常生活で特に片耳難聴を持つ人が聞き取りに困りがちな場面で体験する様子が撮影されました。

眼鏡型の補聴器、実は他のメーカーから出されていたものがありました。デザイン性や着用感に改善の余地があると高木君らasEarsは考え、眼鏡と同じようにファッションとして、そして気軽に毎日付けたくなるようなデバイスを考案したそうです。今後に、乞うご期待。

  • 「片耳難聴に使える補聴機器」についてはこちら
  • きこいろでは、イベント時に他メーカーの補聴機器体験も行っています。

ご協力ありがとうございました。

手を合わせて集合している人達

きこいろの活動を初めてまだ1年。まさかTV取材して貰えるとは思ってもおらず、突然の全国区、視聴者にしてなんと約100万人!

片耳難聴の当事者やご家族はもちろん、それ以外の方にも見ていただくことができました。

TVだからこそ、よりリアルな片耳難聴の姿が伝わればと思っています。

制作スタッフは、大変熱心に取り組んでくださいました。論文やWEBサイト上の記事を読んで下さり、私たちの話にとても真摯に耳を傾け、「個人的な勉強に…」と言って、ろう学校で開催されていた片耳難聴を持つお子さんと子どものグループも見学しに来てくださいました。

取材の依頼を受けたのは今年の1月。何度もメールや電話や対面で打ち合わせを重ね、計5日間にわたる撮影と、1ヶ月にも及ぶ編集期間。
1つの番組のために、こんなにも沢山の人と時間をかけて丁寧に作られているんだなと思いました。そんな番組のテーマに片耳難聴について取り上げてもらえたことを有難く思います。

きこいろのメンバーや活動場面を通して「片耳難聴と一口に言っても、そこにも多様性がある」ことをお伝えできたものになっていればいいなと思っています。

ご尽力いただいたNHKスタッフさま、写真提供や出演など取材に協力頂いた皆様、シェアして下さった方、改めてお礼申し上げます。ありがとうございました!

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