両耳難聴のある人とのコミュニケーション

2023年7月9日 − Written by 高井 小織

「両耳難聴の基礎知識」に記載したように、
両耳難聴の聴力の程度もコミュニケーションの手段も、さまざまです。

幅広い状況の要因のいくつか

  • 聴力と聴覚活用
    ・補聴器や人工内耳をつけていないときの聴力の程度
    ・補聴器や人工内耳をつけて、聴覚活用しているときのきこえの程度
  • 言語力や周囲の言語環境(周囲の人との関係性や運用する言語力)と意欲や必要性
  • 年齢や人生における各ステージ 

以下に挙げる多様なコミュニケーション手段や機器・システムなどについて
同じ人でも、コミュニケーションの相手や状況・情報の種類によって、異なったものを使ったり、複数のものを組み合わせて使ったりすることが多いです。

子どもの頃と大人になってからでは、異なる場合もあります。聴力が同じであれば、同じ手段が有効であるとも限りません。

少し知識があると、お互いのコミュニケーションが取りやすくなるはず。
この記事で、ポイントについて学んでみましょう!

目次

1.音声
2.音声と視覚の併用
3.視覚
4.音情報を伝えるツール
5.発症時期と支援のポイント

1.音声

音声を聞き、話す人もいます。

対話の相手からの声

話しかけるときに、少し意識すると聞き取りやすくなります。

特に難聴のある方と関わり支援する立場にある、保育士や教員・医療職など対人援助職の立場の方は、普段の自分の声や話し方の癖について知っておきましょう。

ポイント

  • 話す場
    顔や口元が見える位置から話す。
    なるべく静かな場所を選ぶ。
  • 大きさ
    難聴の程度に合わせた適切な音量。
  • はやさ
    ゆっくりめで、文節程度に区切る。
    「今日は/朝から/蒸し暑いですね」
    ×「き・ょ・う・は・あ・さ・・・」
  • 補聴器
    至近距離で、大声で話さない。
  • 言い方
    聞き取りにくい言葉(同音異義語など)、分かりにくそうなときは言い回しを変えてみる。
  • 動き
    口角を上げ、口の形を意識する。
  • 声質
    ガラガラ声や息の混じった声ではなく、はっきりと。
    特に子音を意識。

聴覚障害者に向けたスピーカーシステム

全体の音量ボリュームを大きくするのではなく、日本語の音声の弁別に特徴的な周波数を増幅するなどの特徴があります。
広く放射状に伝わるのではなく、特定の対象の人に向かって線状に届く特性のあるスピーカーシステムです。

最近では、銀行の窓口や航空会社の受付などに設置されている例もあります。
個人情報や金額の話題などを大きな音量で伝えなくてもよく、役立ちます。

参考:商品例「コミューン」 「ミライスピーカー」

公共の放送設備

以前は、駅のアナウンスや車内放送など、話者の癖もあって聞き取りにくいものが多かったと思いませんか。
最近は「上り」「下り」で男女の音声で区別されているところもあります。

学校や体育館など「残響」がある空間では、音響装置によってかなり明瞭さが異なります。
こうした放送設備についても、最近研究・開発が進んできています。

音楽ホールは、ある程度の残響が音の響きによい影響を与えますが、
音声でのやりとりでは、反響やエコーなどはないほうが聞き取りやすいです。

  • 質のよい音響設備 
  • 反響が少ない空間 
  • 調整された音量

個人が使用する機器・システム

●補聴器・人工聴覚機器
分野での技術進歩は速く、近年は多様な機能がついているものもあります。

  • ハウリングを抑制する・雑音の除去・抑制を行う
  • 指向性(聞きたい方向を選ぶ)
  • 不快な音を抑制する(食器がぶつかる音、耳元近くの風の音など)
  • シーン別プログラム選択(静かな室内、電車内、音楽を聞くなど)
  • データロギング(記録)・遠隔フィッティング など

  • 昔の補聴器は、「1割負担の機器(福祉型)より機能がよいものを購入すると、自己負担額がかなり高額であった」という理由で、かなり長い年月一つの補聴器を装用し続けている事例が多くみられました。補聴器は毎年のように新しいものがでてきており、福祉型の機能も年々高まっているので、5年に一度の交付の機会をうまく使えるとよいと言われています。

●無線(デジタル)補聴援助機器/システム
音は距離が離れるにつれて弱くなります。
補聴器で2~3m以上離れた個人の声を聞き取るのは困難な場合が多いのです。

そこで「無線(デジタル)補聴援助機器・システム」では、

  • 話者に送信機
  • 聴覚障害児者が受信機

をつけて、距離の影響を受けずに補聴器や人工内耳に直接音を届ける仕組みです。
一対多の教室や、講演会、会議などで有効な場合が多いです。

機器のタイプは、さまさざまです
・送信機:首にかけるネック型、襟元につけるクリップ型、卓上型など
・受信機:補聴器、人工内耳に内蔵、補聴器や人工内耳の体外部に小さな受信機(シュー)をくっつけるもの、ネックタイプなど

それぞれの機器・システムの使用方法をよく知った上で使います。
例えば、指向性のあるペン型の送信マイクは、口元に向けて15㎝で最もよく音を拾うなどの知識は必要です。
特に学校内では、送信者側のスイッチのオンオフや保守管理などの知識が求められます。

参考:「補聴器機について」

2.音声と視覚の併用

読話(リップリーディング)

音声と併用して、話者の口形を「見ながら聞く」ことです。
私達は、聴者・片耳難聴者もふくめ無意識に行っています(マガーク効果)

日本語を発声するときの口の形は、母音(a/i/u/e/o)です。この5つは口形で区別できます。
また、ヤ行やワ行、子音のm/p/bなど、十数種類の口形については見て弁別ができるとされています。

従って、音声と口形を併用して情報を受け取る聴覚障害児者との対話場面では、話者の口形が見える距離や位置を意識することが大切です。

  • 2-3m以内の距離
  • 逆光にならない位置
  • 窓際を背にして話さない
  • あまり動き回りながら話すのは避ける

学校場面では、集会のときなど並ぶ順番があって整然とした「整列」を求められることが多々あります。
話を聞く場面になったら、見えやすい位置になるように少し位置をずらすことなど、お互いが確認した上で許容できることだと思います。

参考:「片耳難聴と読話」 「ユニバーサルなマスク」

3.視覚

手話

●日本手話
音声日本語とは異なる、言語としての独立性をもち、独自の文法構造があります。

音声や口形は不要で、手形・動きなど手・腕だけではなく、視線・頷きや眉上げなども独自の文法として用います。
日本ろうあ連盟は、毎年「新しい手話」を冊子にして周知していますが、その中には、指文字を用いた音韻を利用しているものなど(例:ワクチン・パソコン)もあります。
      
手話通訳者や要約筆記者を2013年「障害者総合支援法」に基づき、各自治体が養成し派遣する事業を展開しています。

手話を必要とする両耳難聴のある方も、個人やその状況によって求められる手話には幅があります。
情報をまとめて要点だけを伝えてもらうことを希望する人や、
できるだけ逐語訳のように全てを網羅する形で伝えることを希望する人など、必要とする方の状況や要望に合わせて、確認しながら行います。

●中間的な手話(音声日本語と併用する場合が多い)
日本語対応手話とも言います。
音声日本語を話しながら手話をつける場合も多いので、現実には多くの場面で使われており、厳密に日本手話と区別することは難しいです。

●指文字
50音の日本語の単音節(あ・い・う・え・お)を片手で表したもの。
大正時代に全国で唯一手話法での教育を守った大阪市立聾学校の高橋潔校長が、自校の大曽根源助教諭をアメリカに派遣し、アルファベットの指文字などを用いてまとめたものです。

先天的に聴覚障害(両耳)のある子どもが音韻意識から書記言語を獲得するときに、意識して利用することもあります。
指を細かく操作しにくい幼い子どもにとっては、少し難しい指文字もあります。      

キューサイン

音声日本語を発声しながら、母音は口形でよみとり、子音を片手の形で構音方法などのポイントを示すもの。
「き・し・ち・・・」などイ列の音節は、口形は同じですが、k・s・t などの子音部分が異なります。

先天的に聴覚障害(両耳)のある子どもが、構音を意識し音韻意識を育てる目的で、
聴覚特別支援学校幼稚部の一部(全国的にみて1/4程度)で、2歳ごろから就学前頃まで用いられています。
全国で統一されていないので、地域によって異なります。
大人になってからのコミュニケーション手段としては用いられません。ホームサインのように家庭内で使われ続けることがあります。
 

文字

手書き文字

空書

空に指で書く、手のひらに指で書く、地面に棒で書くなど。
道具が不要で、その場・その時に限定的に使うことができます。

●ノートテイク

学校で、教室内の教科授業の「情報保障」に用いることが多いです。
ノートに話されたことを書き、聞こえない人に伝えます。

要点を書くのではなく、全ての音声をそのまま書き表すのが原則。
略語や記号など、ルールを決めて、やわらかいサインペンなどでできるだけ速く書かなければいけないので、練習が必要です。
略語・カタカナなどを多用します。
それでも、多くの場合、話すスピードの1/10から1/5程度が限界です。

大学の授業では、学生が有償で90分の授業を2名で担当する場合が多いです。


  • 情報保障
  • 人間が本来得られる情報を保障すること。
  • 聴覚障害や視覚障害があり、必要な場合などに用いる。

●磁気ボード
昔、こどものおもちゃで「せんせい」という商品名で、画面に砂磁石で文字などを浮かび上がらせるものがありましたが、それが進化して使いやすくなりました。

「ブギーボード」は、大きさもメモ帳程度からB4ぐらいまで多種類あり、
ペンで細かく書き、ボタン一つで消すことが可能で、最近はPCと連携して保存できるものもあります。

筆者が勤務していた中学校難聴学級では、聴覚障害のある中学生一人ひとりに一台ずつこれを貸与し、校内のどこの場面で使ってもよいこととしました。
授業中の「1,2」など口形が似ているページ数を隣のきこえる生徒がさっと書いたり、部活ではチームの作戦板のように活用したりする場面がありました。
参考:商品例「ブギーボード」 「コミュニケーションボード」

活字(パソコン・スマホ・タブレットなどに表示される文字)

対話型のSNS 
LINE・チャット・メッセンジャーなど多様なアプリは、
きこえる・きこえないに関わらず、ここ数年で幅広い年代に普及し、聴覚障害児者にとっても書記言語力に応じて、対等に受信・発信できます。

吹き出しのよう形式で、対話型にみえるものもあります。
文章として不完全な話し言葉に近いものや、ニュアンスや感情を表す、絵文字や略語・表情記号などがあり、新しい時代の「話し言葉」のように扱われています。

●パソコンテイク
学校で、教室内の教科授業場面で、「情報保障」に用いることが増えました
パソコンで話されたことを打ち込み、聞こえない人に伝えます。

前述の手書きノートテイクに比べると、格段に速く入力ができます。
タイピング能力は最低限10分間に600字以上必要です。
入力の方法には、一人が全てを入力する方法と、二人が連携して入力する方法などがあります。

応用として、教室内の音声情報をインターネット回線を使用して学外の入力者に送り、入力した文字情報をもう一度授業を受けている児童生徒の机上のタブレットに送るという遠隔無線システムPCテイクシステムもあります。(例:T-TACcaption 筑波技術大学開発)

人が入力するので誤認識が少なく、入力者の場所の制約がないという利点はありますが、
費用面・ネットなどの環境・スキルの向上と維持などの課題もあります。

●音声認識
人の声をコンピューターで処理し、文字に変換して表示するシステムの総称で、専用アプリを使用します。
ここ数年で非常に進歩し、聴覚障害児者に限らず様々な場面や人が利用しています。

音源から距離があるなど音声入力レベルが十分でない場合や、
言葉が不明瞭、話すスピードが早すぎる場合は、誤変換や認識されないことがあります。
話し方のスキルアップや、専門用語を予め登録しておく等の工夫が必要です。
参考:アプリ例 「YY文字起こし」 「UDトーク」 「こえとら」

「音声認識アプリ」と、オンラインweb会議サービスなどと組み合わせることもできます。
また、透明文字盤と組み合わせ、「話者の顔と合わせて読むシステム」についても開発されています。

リアルタイム字幕を表示する透明ディスプレイ

4.音情報を伝えるツール

聴覚障害者用屋内信号装置・火災報知器

来客時の玄関チャイム・電話・赤ちゃんの泣き声・火災報知器の
音などを、光(フラッシュライト)、振動などで知らせる装置です。

振動式目覚まし時計には、「枕や布団の下に据え置くもの」や「腕時計型」、「屋内信号装置との組み合わせ」など様々なタイプがあります。

なお、火災報知器は全ての家屋に設置が義務づけられています。
聴覚障害者の場合は、わさび臭や光・振動で知らせる機器があります。

参考:商品例「振動アラームクロック」 「振動式腕時計バイブフライト」「ベビーセンサ発信器」 「回転呼び出しライト」

5.発症時期と支援のポイント

両耳難聴の場合、難聴になった時期により、言語習得やコミュニケーションに及ぼす影響には違いがあります。
以下に、診断時期によるポイントをまとめました。

言語習得前(3~4歳より以前)

「うれしいね」「おいしかったね」と気持ちを共感するような情動的なコミュニケーションを基盤にして、
日常生活の経験と意味を、音声言語(話し言葉がわかる/声をだして話す)や視覚言語・手段(手話・指文字など)につなげます。

言語習得に限らず、情緒面・社会性・認知面などにも幅広く影響があるため、
子どもの発達の長い期間を見通し、個々の特性や家庭環境等を考えての対応が必要とされます。

言語習得途上(9~10歳より以前)

読み書きの言語の基礎をつくるこの時期までを「言語習得途上」とみなします。

聞こえる子どもにも『9歳の峠』という認知・発達の節目がありますが、
両耳難聴のある子どもには、より明らかな課題となるケースが多くみられます。

日常生活で通じるやりとりから、抽象的な概念操作や、場面や相手に応じた言葉の使い方、
また学年があがるにつれて読み書きの言語力へと、やりとりの質を大切にしながら丁寧に支援することが望まれます。

言語習得後:青年期以降

音声言語で「話し」、日本語で「書く」力は既についています。

徐々に聞こえにくくなる加齢性難聴と、突然きこえなくなる難聴とでは
心理的な影響は異なりますが、
共通して、周囲とのコミュニケーション、自分の「障害認識」が課題になることが多いです。 

それぞれが自分で選んだ場面で、自己開示について経験を重ねることや、仲間(ピアグループ)の存在も大きい意味を持ちます。

聞こえる人も、聞こえない人もいます。
よりよいコミュニケーションのために、お互いに「どうするのがよいですか?」と選択や確認を重ねていきましょう。

きこいろとは

片耳難聴のコミュニティ、「聞こえ方はいろいろ」略して「きこいろ」。
有志の片耳難聴当事者や専門家を中心とした、ボランティアが運営する任意団体です。
交流会勉強会啓発活動などを行っています。会員メンバー以外も、どなたでも利用できます。

片耳難聴とは

片方の聴力が正常聴力で、もう片方の耳は聞こえる状態のこと。
補聴器機や手話、筆談等を日常的に使用する人は少なく、音声でコミュニケーションを行う。
医学的診断名では、「一側性難聴(いっそくせいなんちょう)」、
難聴側の聴力が、重度や聾(ろう:聞こえない)場合には「一側聾(いっそくろう)」が使われることもある。

著者紹介