「片耳難聴でも医療職になれるの?」と質問をいただくことがあります。
片耳難聴のみを理由に、資格取得の制限がかかることはありません。
両耳難聴の場合も、サポートを活用しながら業務が可能な場合、
看護師・医師など医療従事者として働くことができます。(詳細は、後日別記事にて)
今回のインタビューでは、
看護師として片耳難聴をカバーしながらの働き方や、
子ども・学生時代のこと、
片耳難聴で落ち込んだときの自分との付き合い方などお話を伺いました。
お話を伺った方のプロフィール
- 名前(仮名):のん
- 年齢/性別:30歳/女性
- お仕事/所属:看護師/耳鼻科クリニック
- 聴力の程度:左耳が全く聞こえない
- 原因/時期:原因は不明/幼稚園で判明
- その他の症状:なし
- 補聴機器の使用:クロス補聴器を試した
- 自己開示の有無:言えるタイミングがあれば伝える
- 片耳難聴の受けとめ:段々ポジティブに捉えられるように
1. 看護師の業務について
忘れられるのは、それだけ問題なくやれてるってことかも
看護師を一通りやってみて思うのは、出来ないってことはないなと感じます。
性格や向き不向きはあると思うんですけど。片耳難聴ってだけで諦めなくてもいいのかな、と個人的には思います。
看護師ならではの良いこと、あるいは大変さを感じるときってありますか?
働く環境の選択肢の幅が広くて、選びやすいのは良いですね。
例えば、大きくて賑やかな病院もあれば、小さくて静かなクリニックもある。
診療科も沢山あるし、救急のような命に直結するハードなところから
福祉施設のデイサービスといった比較的ゆとりのあるところまであります。
訪問看護(地域にある患者宅に訪問)であれば1対1で一人職だし、
病院の病棟でも「今日の受け持ち患者はこの人」って自分のタイムスケジュールで受け持つような、どちらかといえば一人職っぽさもあったりします。
スキルがあればそれだけ選べて、
片耳難聴にも優しい静かな環境や、
1対1での業務が中心といった仕事ができるのかなと思います。
医療系はそこが強みで、どこでも必要とされるから自分次第で選べますね。
周りの人も、やはり看護師になるような人たちなので個々の経験から、思いやりとか気遣いがあるような気がしますね。
看護師を志したのは、なにか理由やきっかけがあったんですか。
そんなに深く考えずになりました(笑)。
私の家が超公務員一家で、教科書通りのレールがあるような家で「ちゃんと食べていける職業につきなさい」みたいな。
それで当時、看護師、警察官、先生…とざっくりとした仕事しか思い浮かばなくて。
「じゃあ、福祉に興味あるし看護師でも」って(笑)
その感覚は分かる気がします(笑)これまで、働いてて耳の影響っていうのはどうでしょうか。
患者さんや先生の声が聞こえない時は、「すみません、もう一度..」って聞き返しちゃいますね、聞こえるまで。薬の容量や処置などの指示は特に大事なので復唱します。
祖母が看護師だったんですけど、私が看護師になると言ったときに「聴診器をあてるとき、のんちゃんは大丈夫なの?」って言ってくれました。
でも、左右の聴診器から同じ音が入ってくるので、しっかり聞こえる側で聞き取れれば問題ないです。
他の医療職の方も「復唱」は、職場みんなで徹底してることだから不自然にならないと言っていましたね。そして、いまは耳鼻科のクリニックで働かれていると。
キャリアとしては、大学病院の耳鼻科で4年勤務後、今の耳鼻科クリニックに勤務しています。
オペ室でメスを渡したりするアシスタントをしていて、先生にマスクしてごにょごにょ…って言われると、聞き取りにくいのはありますね。そのときは、私が聞こえる位置に立っているので大丈夫だったんですけど。
あとは、先生に器具を渡すので、先生のいる右側に集中していたとき。外回りの看護師が私に向かって「何か出しますか?」って聞こえない左側から言われると「え、なんですか?」ってなるのもあります。
聞き取れなかったって気づける時はいいですが、何回も呼ばれるような完全にスルーしてしまっている時は、ミスしてしまうこわさと申し訳なさに凹むこともあります。
そういうことのないように、周囲をよく見たり意識的にアンテナを張っているから、少し緊張疲れするような面もあります。
でも、マスク着用の職場だし、ボソボソ小声でしゃべるドクターもいるので、両耳聞こえるスタッフも「聞こえづらいよ、私もぜんぜん聞こえてないし」って言われたりもして。
私の聴覚の問題があり、先生の声や話し方にも問題があり…。
自分が片耳難聴だから聞こえてないと思ってても、聞こえている人でも案外聞こえてないこともあるのかなと思いました。
聞こえる人に片耳難聴を伝えたときに、「私も聞こえないことあるよー、大丈夫だよー」って返答されるとモヤっとするみたいなのがある気がするんですけど。そういう受け止め方もありますね。
先生に「手術中の介助、問題なかったよ」って言って頂けたとき、当たり前に出来なければいけないことではあるのですが、片耳しか聞こえない中で両耳聞こえる人と同じようにこなせているだけで十分すごいじゃんって。片耳でも出来てるってそれは素晴らしいんじゃないかと思うようになりました。
片耳難聴を気づかれない、忘れられるっていうのもですけど、それだけ問題なくやれてるってことか…と思ったら。すごいよねって、逆にポジティブに最近は思うようになりましたね。
のんさんの看護師としての努力が伝わってきます。では、就活のときにも特に片耳難聴で苦労はなかったんでしょうか。
最初の勤務先は、専門学校からエスカレーター式で大学病院に入職しました。
エスカレーター式だし、断られはしないと思ったんですけど、面接のときに片耳がまったく聞こえないとは言い淀んで。「ちょっと左耳が聞こえづらいんです」って言いました。
第一希望は外科に出していたんですが、結局耳鼻科になって。考慮されてそこに配属されたのか、分からないんですけど。
なので、耳鼻科を初めから自分で希望したわけではないんです(笑)
結果的に、突然に片耳難聴になって不安にされてる患者さんがいたら「私も片耳難聴だよ」って、相手の立場になって寄り添えたりもして、そういうのができて良かったなぁと思ってます。

2. 子どもの頃
片耳聞こえないせいにしたときもあった
子どもの頃はどうでしたか。
はじめ、全人類片耳しか聞こえないと思っていました…(笑)
気づいたのは幼少期で、電話の受け答えのときに何か変と母が気づいたようなんですけど。
私としては「あれ、皆は両方聞こえるの?まじで?」みたいな…(笑)
聞こえない方に内緒話をされて「いやいや私そっち聞こえないよ、どういうこと?」って(笑)
でも、幼少期は困りもせず、落ち込むこともなく過ごしてました。
ただ、両親はもともと心配性なので少なからず落ち込んでいたと思います。
なので、私が耳のことで弱音を吐いたら、親が自分を責めてしまいそうで悩みを打ち明けなかったです。
過剰に心配されたりするのも面倒だし、他人に話す方がかえって気楽に感じます。
就職のときもそうでしたけど「普通学校に行って、それなりの中学高校にすすんで、ちゃんとした安定した職業について、結婚して出産して..」と安定した道を進んでほしいって家だったと思うので。
片耳聞こえないのも、親からしたら世間体が気になるんだろうと思っていました。
もしかしたら親身になってくれたかも知れないですけどね。
そうだったんですね。小さい頃は気にならなかった、その後に気になりだした瞬間って記憶に残ってますか?
いつだろう…中学生くらいですかね。
バスケ部だったんですが、左側から何回も呼んでくれてたのに気づけなかったんですよね。
それで悪気はないけど「ちょっと聞いてよ~」って、耳のことを公表してない子に言われたりしたことがあって、考えるようになったかも知れないです。
常に悩んでるわけじゃないけど、そういう瞬間がありました。
高校もソフト部だったんですけど、チームメイト全員には言ってなくて、仲のいい子だけっていう感じでした。
どっちも団体スポーツでしたけど、自分で動いてカバーして人並みにはやれてたはずです。
ただ、片耳聞こえないせいにしちゃうときもあって。
例えばバスケ部の時に、もうちょっと左が聞えると上手くプレーできるのになぁ…と思ったり。片耳難聴のせいにするというか。
そんなのは努力や工夫でもカバーできると思うんですけど。聞こえないっていう方向に引っ張られてしまって。
「上手く行かなさ」と「片耳難聴」が、一緒くたになるというか。上手く行かなかった原因は、他にもあるかもしれない。耳以外に改善できるチャンスも、うやむやになってしまう…といった感じでしょうか。
そうですね。
かといって、「努力でカバーできる」って言葉を簡単に使いたくないとも私は思うんですよね。確かにそうなんだけど、でもすでに頑張ってるじゃないですか。
うん、そう、すでに素晴らしいとも思うし(笑)
大変だけじゃなく、もちろん嬉しいなって思う経験もあります。
高校からの親友で、いつも自然と私の立ち位置や席を気にしてくれる子がいるんですね。
なんでかって聞いたら、私がまだ耳のことを伝えていなかったときに「ツンボ」といじっちゃったのをすごく後悔しているらしくて。
そんなエピソード忘れてたし、そもそも伝えていない私が悪いんですが、今もごく自然に気遣ってくれる親友には感謝してます。

3. 大人になってから
片耳ならではの飲み会テク
のんさんは、手話も習われてるとのことでしたが。
看護師になる前くらいですね。手話のサークルに入って、ろうや両耳難聴を持つ友達が出来て、皆でスノボ行ったり遊びに行くようになって世界が広がった気はします。
両耳が聞こえなくても、楽しく生きられるって感じたし、漠然とした不安も減っていきました。
皆さん読話のスキルがすごいので、手話なしても言いたいことをすぐ理解してくれて。だから全然手話を覚えないままになってしまっているんですけど…
同じような経験があります。
めちゃめちゃ皆さんに甘えてると思います。本当に皆すごくて。でも、そこまでの読話のスキルを得るのには幼少期からそれはそれは大変な努力をしたと聞きました。
皆は手話だけで会話できるから、レストランとか静かなところでも音のない会話ができて。
私が入ることで発話を入れてくれたりするんだけど、そういうときって私が邪魔になっているような感じがあります。
そういう経験もそうだし、大人になるにつれ、
片耳難聴の付き合い方、自分のペースというのが分かってきて、だいぶ楽になっていると思います。
ただ、やっぱり1人でいる方が変な説明や気遣いもしなくていいので、つい一人でいるのを選んじゃうのもありますけどね。
1人は1人で気楽ですよね。孤独じゃなければ。
飲み会も、聞こえにくいなと敬遠しちゃうときもあるんですけど、気づけば片耳スキルが身につきましたね(笑)
第一に、聞こえるポジションですよね。下駄箱やトイレ行って時間調整して、いい端の席をキープ。
周りの人に上座の席、「奥どうぞ~」って進めるタイミングで、もし伝えられそうな雰囲気なら「私、左耳が悪くって」ってカミングアウトしちゃいます。
飲み会のテンションだからこそ、さらっと伝えやすいです。
「楽しい席で、重くなったら嫌だから言いにくい」という感じもあれば、逆に「お酒の場だからこそ気楽に言える」みたいのもあるかもしれませんね。
はい。いい席をキープできなかった場合も、知ってる人に聞こえない側にいてもらうと、聞こえなくても大丈夫です。
自分は座る位置をお尻一つ分後ろにして、目で全体を捉えられるようにしておく。
そうして聞こえにくくても、反応しやすくしておきます。
で、早々に挨拶やお酌するふりして席移動して。
移動から戻るタイミングで「ここいいですかー?」って自分が聞こえやすい位置に割り込む感じに行くと大抵「はいはいー」ってナチュラルに座れます(笑)
ありますね。
オーダーとったり、来たものを運んだりして固定の場所に座らないとか。
聞こえにくいところで人と話すときは、質問を沢山してとりあえず語らせる、または自分が話の主導権を握るために話し続ける(笑)
日常もそんな感じですよね(笑)けど、それってちょっと疲れたりしませんか?
そうですね。自分の気持ちが乗らなかったり、疲れちゃうときは無理に参加しなくていいとも思ってます。
自分の心が楽ならそれがいいのかなって。
片耳難聴のことでネガティブに思うことも落ち込むときもあるけど、それでもいいんじゃないかと思ってます。

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