「好きな人に、片耳難聴をどう伝えてる?」
「結婚するとき、相手の親に伝えた?」
「好きな相手のためになにかできることはある?」
などの質問をいただくこともあります。
きこいろでは「片耳難聴と恋・愛」といったコラムで多数の方のエピソードを紹介してきました。
100人いれば、100通りのストーリー。
今回は、20年連れ添うご夫妻のお話を伺いました。
目次
- 自然体でいられること
「彼が受けとめて笑ってくれるから、素のままの自分でいられる」 - 日々の生活や親族との付き合いの中で
「聞こえる皆は困らなくても、私はきつかった」 - 体験を共有して知っていく
「彼女がほんとに聞こえないって気付いたのは、付き合って何年も経ってから」

お話を伺った方のプロフィール
- 名前:のんさん(仮名)
- 年齢/性別:40代、女性
- 仕事:教育関係
- 聴力:左耳は正常、右耳が全く聞こえない
- 原因:不明
- 発症時期:子どもの頃から
- その他の症状:特になし
- 補聴器:使っていない
- 周りの人への開示:必ず伝える
- 片耳難聴の受けとめ:私の個性のひとつ
夫
- 名前:ぴょんさん(仮名)
- 年齢/性別:50代、男性
- 相手の片耳難聴を知ったとき:付き合う前から
- 相手の片耳難聴についての受けとめ:今でも理解が不十分
1.受けとめて笑ってくれるから、素のままの自分でいられる
まず初めに、夫のぴょんさんに伺います。
「片耳難聴と恋・愛」という以前に掲載した体験談のコラムを読み、異なる部分もあったとのことでした。どういったところですか?
夫:他の片耳難聴のパートナーの方々の対応が、すごく優しいなぁと。
僕の場合は、付き合う前から同じ職場にいて知ってはいたけれど
よく言えば重く捉えていなかったし
まぁ十分に理解をしていなかったから、気遣えてもいなかったので。
そうなんですね。
コラムに関しては、アンケートに答えてくれる時点で関心高い人というバイアスもありそうですが。
今、ぴょんさんは、のんさんと接する上ではどんな風にされていますか。
夫:彼女の聞こえにくさに、真っ先に自分から気をつけるっていう風ではなくて、大抵の場合は怒られてる(笑)
「(聞こえる側は)そっちじゃない」みたいな。
そう言われると「ああ、そうだった」とわかるんですけど。
最初から聞こえない側に立つな、っていうことですよね。
妻:怒るっていうか、
かれこれ20年以上も一緒に居るので、まだわかんないんだなぁとは思いますよね。
彼は、ポジションを気にしないで話すことが多くて。
「こっちから話しかけられても聞こえないよー」って私がいつも言うんですけど。
長年一緒にいても、そうなんですね。どっちの耳が難聴かは覚えているんですか?
夫:覚えてます。歩く時の立ち位置は、決まってるので迷わないです。
でも、外に出てパターンやシチュエーションが変わると、できなくなる。
妻の片耳難聴をちゃんとは気にしていないってことなんでしょうね。
妻:もう少し、応用も効くようになって欲しいですけど、夫のいいところもあるんです。
彼に大きい声で「聞こえないよ」って言えるって、私からすると素の自分でいれるってことで。
ありのままの自分でいられる、といった感じでしょうか。
妻:そうです。
聞こえにくいと、空耳って多くないですか?聞き間違いっていうか。
言葉を聞き間違えて捉えちゃって、おやじギャグっぽくなるっていうか。
それを彼は大笑いしてくれるのが、いいなぁって思います。
お正月に大戸屋にご飯食べに行ったとき。
会計する時に「大戸屋のカードありますか?」って店員さんは言ったらしいんですよ。
それが、私には「お寺のカードありますか?」って聞こえて。
なんでかっていうと、初詣に行った帰りで、ちょうど神社がカードを作ってたんです。
だから「神社でもカード作るならお寺でもあるかも。大戸屋もそういうの始めたんだ」って、返答する5秒くらいの間でグルグルグルって考えてて。
「ねえねえ。今、お寺のカードって言った?」って夫に言ったら「ちがうだろー」って爆笑してくれて。
なるほど。そこで「笑うなんてひどい」といった気持ちにはならずにいられているんですね。
ならないです。周りの人には「聞こえないんです」って申し訳ない気持ちを込めて言ってると思うんですよ。何度も聞くのは面倒かけたり気を遣わせたりすると思うし、必ず「すみません」が必ず頭につく。
でも、彼が受けとめて笑ってくれるから、彼の前では素のまま、ありのままの自分でいられる。
それが楽です。
おやじギャグのような日々の聞き間違えを、笑ってくれる人がいるってことは楽しい、うれしい。
彼は、そういう聞き間違いを『面白いね』って言ってくれる初めての人だったんです。
間違いも一緒に笑えるって素敵です。日常では、どんな感じでやり取りをされていますか?
妻:ご飯食べてる時に「今日こんなことあってさー」って。
一緒にいるときに空耳があれば、
「いま、こういう風に聞こえたんだ」とその場で話して
彼が「はあ?(笑)」って言うから、「だって、そう聞こえるんだもん」みたいな(笑)
夫:聞こえに関しての話題が、普段の話の中でも割合が高いかも。
妻:結構な割合だよね。私の一部だからかな。
のんさんから耳の話を聞いて、ぴょんさんはどう感じられていますか。
夫:よく聞くのは、職場が変わってから聞こえにくくて大変だと。
話を聞いても、最初は自分が彼女を責める形にはなっちゃうんです。
「こうしたらどう?」とかアドバイスするような。
あなたがもうちょっとこうすればいいんじゃないの、って話をしちゃう。
8割くらい妻も悪いんじゃないかって、身内だからこそ厳しく見ちゃうのは当然なんだけど。
ただ、話していくと差し引いても
周りの人ももう少し彼女を気遣ってあげた方がいいだろうなという気がして。
もう少し聞こえる人も気付けるような環境がないのかなとは思っています。

2.相手は困らなくても、私はきつかった
日常お二人で過ごしていて困ることや、そのための工夫はありますか。
妻:困るのは、飲食店に行ったとき。
二人で向かい合って座るなら、私は聞こえる側に壁がある方がいいんです。聞こえる側に他の音が入らないから楽。
でも、聞こえない側を通路にするとオーダーのときに困るんです。
店員さんに「~~~ですか?」って聞かれたとしても分からなくて。私が注文するときが多いから余計に。
それなのにいつまで経っても夫は、私はこの状態だと難聴側だから聞こえないって覚えなくて。
最近、「この位置で座っているときは店員さんとのやりとりがしにくい。だから、あなたが注文してね」って変えました。それで覚えてもらおうと思って。
特に賑やかなお店は聞こえにくいですよね。
お二人の間のことだけではなく、結婚すると親戚が増えたり、お互いの友人と会う機会もあります。そういうシーンではどうされてますか?
夫:私の家族はみんな知ってます。
親は一番最初に会った時に伝えて、親戚には、挨拶を交わした時にそれぞれ言いました。
友人は、初めて会った人には言ってる。
けれど、耳のことがメインの話になる事があまりないから、多分覚えてない気がする。
妻:私が伝えたいと思ってて。
夫:僕としては、彼女が難聴であるというのを気に留めてなかったので、話す話さないというのは考えてなかったんです。
うちの親も、あ、そう?くらいの受けとめ。片耳聞こえないってのは伝えても、それがどういうものか、大変さがあるかまでは想像が及ばないと思いますね。
妻:「自分達も年取ってきてるから、聞こえないよ、こんなもんでしょう」って感じ。
どういうときに困りますか。
妻:盆暮れに帰って、皆でご飯を食べる時に聞こえづらいです。
親族でも上座下座があったり、女性は動き回るからこの場所で、みたいなのがあって。
私は、集団のガヤガヤした中で聞きにくいから夫の近くでフォローして貰えると安心だけど、最初はその行動もなかなか理解して貰えなかった気がする。最近、大丈夫になってきたかな。
夫:多分そこまで、皆も意識してないんだよね。
妻:皆は意識してないし困らないけど、私はきつかった。結婚した当初で、周りと馴染みのないときは尚更。
ジェンダー(性役割)の話でもありそうですが、女性の場合は相手のおうちに入る感じ、役割に応えなきゃといった規範があって、ただでさえ気を遣う感じはします。
妻:そうですね。
私だけかもしれませんが、空気が読めないんですよ。聞き取れないと次の動作に移れないから。
こちらとの会話の中で話して伝えて貰えればいいけど
そうではなく、皆のなんとなくの雑談のような中で決まるものや動きが多くて、しかも、複数人のざわついた中での話は聞き取りにくい。
親戚関係だと、葬儀で知らない人もたくさんいて、ガヤガヤしてる所で動かなきゃいけないときも困りますね。
聞こえにくいから、その分を目で見て理解しようとしても、全てを補えるわけではないからテンポが遅れてしまって。「なんであの嫁、トロイんだ」みたいな雰囲気が…。
そのためにも、知っている夫から離れないで聞きながら動こうとするんだけど、周りからは「いつもくっついてて仲いいわねー」って言われてしまったり。
そうじゃないんだ、っていう…。もどかしいですね。
妻:たまにしか会わない人には伝わりづらいんでしょうね。相手からすれば「だって聞こえてんじゃん、話できんじゃん」ってなってしまう。
ましてや、内面の心情、葬式やお通夜で騒がしい中でお酌をしてて、聞こえにくいけど印象良くしなきゃ、下手なこと言えない…って笑って逃げてる心の内は、わかって貰えないだろうとは思います。
葬儀の時など、TPOによって言い出しにくいときがありますよね。
妻:子どもの頃から自分の家の中では特別じゃなかったし、
学校の友人知人にも理解ある人がいて、自分でも特殊と思わずにやってきました。
それが社会人になって、仕事や結婚もふくめて関わる人や色んな場面に出ていくことが増えて、壁にぶつかりましたね。
環境や置かれた状況にも左右されますよね。
人によっては、大人になってからの方が楽な環境になったという方もいらっしゃいますし
大変な状況があっても、身近な人だれか一人でも理解を示そうとしてくれたらホッとしますよね。
妻:彼が今こうして興味を示してくれ、耳を傾けて話をちゃんと聞いてくれるっていうのは、良かったなと思います。

3.彼女がほんとに聞こえないって気付いたのは、付き合って何年も経ってから
ぴょんさんの受けとめるスタンスがありつつも、実際の行動としては20年経っても難しい部分もあると感じられているんですよね。
ぴょんさんとしては、どうなったら理想だな、ってのはあるんでしょうか。
夫:フラットな状況というか、自然な形でいたいなと。
先回りして気を遣ってとなると、お互い疲れちゃう。
気を遣われたいわけではないとも思うから。
申し訳ないけど、自分で常に意識して本人より先回りして準備する、そこまでは必要ないのかな…。少なくとも言われた時には、理解してちゃんと行動できたら。
妻:先走りで良かれと思って、こちらが欲していないことをされるよりは、いいのかな。
本人が「こうして」「ああして」と言われて嫌でないなら。まぁでも、毎回毎回言うのも疲れるってのも本音ですね…。
夫:それでも、最近は改善されてきたと思ってるよ。
妻:10年くらい前からかな、頑張ってくれてるなと思うようになりましたね。
何かきっかけがあったんでしょうか。
夫:積み重ねかなあ。何度も言われて。
それで、自分でも調べるようになってからですかね。
彼女が転職してとても大変だっていうのがこっちに伝わってきて。どうしたらいいのかなって、きこいろのサイトもそうですけど、情報を自分で探したりとかしてからですよね。
だいたい実のところ、彼女がほんとに片耳聞こえないなって気付いたのは、付き合ってから何年も経ってからなんです。
それが分かったのが、目覚まし時計の音が聞こえてない姿を見てからで。
ずっと、寝るのが好きだからアラームがなっても寝てるのかなと思ってて。
何年か経って、ふと「あれ、もしかしたら聞こえてないって事!?」って、やっと理解して。
結びつかなかったんですよね? 片耳難聴であることが、実際の生活の中で。
夫:あ、これか!って。聞こえないってこういう事なのね、って。
それまでも頭では分かってたんだけど、自分の感覚に落ちるまで時間がかかった。
そのくらいから配慮するようになったんじゃないのかな。
妻:やっぱり実体験しないと難しいんだなぁ。
何年一緒にいても、言ってもいても、ものすごくは困らずに付き合ってきたのかもしれないですね。のんさん本人が頑張ってるから。
妻:そうですね。
私も全部助けてほしいって訳ではないんですよ。
聞こえないからといって全部が出来なくなる訳じゃないし。
ただ、彼との日々の生活や物事も、スムーズに事を進めたいって思うのなら、聞こえにくさへのヘルプをしてくれたらもっとスムーズ上手く行くんだよっていうだけで。
お互いのためでもある、ということですよね。
では最後に、お二人からここまでお互いに話して、改めて何か感じたことがあれば教えてください。
夫:当事者の人は、今でも努力されててる。聞こえないことは仕方ない、責めるべき事でもないですよね。
だから、聞こえている我々の方がどう考えたらいいかのかな…って考えています。
できる限り求められた配慮はしたいですけど、同時に、どうしても聞こえてる側からすると深く理解するって難しいなとも。
妻:まずは当人に「どうするのが良い?」って聞いたら良いんだと思うんです。
それで、どうするのが良いか一緒に考えて。
その人との関わりを体験するうちに「こういうことか」と実感としてわかってくるんじゃないのかなって。
仲のよい間柄でも全てを理解するのは難しいですが、お二人のように伝え合える関係性は、きっと日常生活でも良いパートナーなんだろうなと感じました。
貴重なお話をありがとうございました。

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