片耳難聴のある人の子育て(ツール、子どもへの影響)

2026年2月26日 − Written by 東樹 詩織

前編に続き、片耳難聴の当事者として子育てをされてきた、17名の方々のエピソードを紹介します。

  • あると助かるサポート・ツール
  • 保護者が片耳難聴であることの、子どもへの影響
  • これから子育てをする片耳難聴の方へのメッセージ

特別なことをしている、という声はほとんどありませんでした。
それぞれの家庭で、自然に工夫を重ねながら子育てをしている、そんな姿が多くみられました。

1. あると助かるサポート・ツール

片耳難聴の当事者として子育てをする上で、あるとありがたいサポートやツールについてお聞きしました。

あってよかったサポート・ツール

子育て中、ショッピングモールに行く機会が増えたが、聴覚過敏もあるため騒音対策の耳栓:Loopは必携。(40代・母親・片耳の高度難聴)

ベビーカーを押している時に、車が来ていることに気づきにくいことがあるので教えてもらえるのが助かっている。(30代・父親・片耳の重度難聴)

手話。聴神経腫瘍での手術後のリハビリ期間、後遺症で言葉が出るまでに数日かかった。その際、手話で挨拶することができたため。また、大切な場面での文字情報があると助かる。(40代・母親・片耳の中等度難聴)

きこいろの片耳難聴オリジナルマークのストラップ、シール。病院のスタッフさんに気軽に伝えられるようになり、とても助かっている。(60代以上・母親・片耳の重度難聴)

あってほしいサポート・ツール

子どもの病院受診の際の配慮。保護者として問診など会話でのやり取りが必須だが、小児科はザワザワしていることが多い上、聞き取りにくい話し方の医師にあたることもある。看護スタッフに確認するようにしている。また、受付で名前を呼ばれても聞き取れないことがあり、子どもに「呼ばれたら教えてね」と頼んでいる。(40代・母親・片耳の高度難聴)

赤ちゃんが泣いたりいつもと違う動きをした時、聞こえなかった場合にも分かるバイブレーションで教えてくれる端末。(50代・母親・片耳の重度難聴)


2. 保護者が片耳難聴であることの、子どもへの影響

保護者が片耳難聴であることは、子どもに何らかの影響を与えているのでしょうか。当事者の方々に考えをお聞きしました。

子どもへの影響について

  • 「影響はない」 8名
  • 「ポジティブな影響がある」 4名
  • 「ポジティブとネガティブ両方の影響がある」 3名
  • 「ネガティブな影響がある」 1名

影響はない

子どもに聞いたところ、「どちらかと言えばポジティブかもしれないが、特別に影響を受けた自覚はない」とのことだった。子どもにとって、私の片耳が聞こえないのは当たり前で、あまり意識しなかったそう。ただ、そういう人がいるということが自然と頭の片隅にあることが、大人になっていろいろな人に会う中で役立つこともある、と言われた(60代以上・母親・片耳の重度難聴)

子どもから話しかけられて聞き取れなかったときに何度か聞き返すことはあるが、そのやり取りが家族団らんの笑いになることも。親が片耳難聴なのは、子どもに対してはまったく影響がないと思う。子どもも、親が片耳難聴であることを忘れてしまうくらいなので。(40代・父親・片耳の重度難聴)

今のところ、大きな影響はないと思う。難聴側から話しかけられてすぐに反応できなかったり、遊びに行った先でうるさい場所だとどうしても聞き返したりすることがあるため、申し訳ない気持ちはある。しかし、コミュニケーションが取れないわけではないので許容範囲かと思う。(30代・母親・片耳の中等度難聴)

まだ子どもが小さいのでわからない。自分が子どもにポジティブな影響を与えられるような姿を見せられるかどうか次第、だと今は思っている。(20代・父親・片耳の中等度難聴)

ポジティブな影響がある

障害等に対しての偏見、ハードルは低いと思う。また、対人面で何かがあった際、「一見普通に見えても何かあるかもしれない」という想像力があるように思う。(50代・母親・片耳の重度難聴)

数年前に聴神経腫瘍によって片耳難聴になってから、聞こえにまつわる話題:デフリンピック、手話、聴導犬などを家庭でも話すようになり、学びになっていると思う。(40代・母親・片耳の中等度難聴)

世の中にはいろいろな人がいるし、障害があっても何とかなるということを示せる。(40代・母親・片耳の重度難聴)

ネガティブな影響がある

呼びかけにすぐに答えられないなど、子どもに負担を強いていると思う。(40代・母親・片耳の高度難聴)

テレビが聞き取れなかったり、外出時に店員さん等の呼びかけに気づかなかったりすると、「◯◯だって」と子どもたちが自然に【通訳】してくれる。ありがたいが、両耳が聞こえていればこのようなケアは必要ないため、気を張らせているかもしれないと思う。(50代・母親・片耳の重度難聴)

「聞こえないから静かにして!」と言って、よく子どもに怒っていた。また、私自身の人間関係があまり上手くいかないことが多く、イライラしてしまい、子どもにいい影響を与えていなかったと思う。(50代・母親・片耳の重度難聴)


  • 参考)コーダ(CODA ; Children of Deaf Adult/s)
    聴覚に障害のある親を持つ、聞こえる子どもの会
    https://jcoda.jimdofree.com/

3. これから子育てをする片耳難聴の方へのメッセージ

今まさに子育てをされている方、そして子育てを終えられた方から、力強いメッセージをいただきました。

片耳難聴でも、全然問題なく子育てできます! 私は子どもが4歳の時に片耳難聴になりましたが、0歳の時に難聴だったとしても「お母さんは左耳が聞こえないからね〜」と伝えたと思います。きっと寄り添ってくれます。
今はナイショ話をする時は聞こえる右耳にしてくれます。聴覚過敏でうるさく感じることもありますが、その都度話すようにしています。
わかってくれるときもあれば、テレビの音量を下げてくれないときもあります。喧嘩になりますが、それも子どもが成長するまでの何年かのことと捉えて、泣いたり笑ったり怒ったりしながら、親子の時間を楽しむように心がけています。それは、どんな家庭でも同じだと思います。(40代・母親・片耳の高度難聴)

皆さんが感じる「片耳難聴で聞こえない側から話しかけられると聞こえづらい」とか、「いつ周りの人に伝えれば良いか」といった片耳難聴“あるある”の困難さはもちろんありますが、
子育て特有のことで片耳難聴による困難を感じることはほとんどないです。なので、子育てをするからといって、特に困難や心配が増えるということはないです。(40代・父親・片耳の重度難聴)

子育ては大変なこともありますが、片耳難聴だから大変さが増すということはないのかなと思います。あまり気負いなく、周りの人も頼りながら、いまの時間を楽しんでください。(60代以上・母親・片耳の重度難聴)

公園でもどこでも、よく「視る」ことがいいと思います。(50代・母親・片耳の重度難聴)

親が片耳難聴だからといって、極端に不安に思うことはないと思います。ありのままの姿を見せて、一緒に成長していこうと思っています。(30代・母親・片耳の重度難聴)

当事者の方への個別インタビュー

さらに今回は、背景や具体的な子育ての様子をより詳しく伺うため、個別インタビューも行いました。

山口県で会社を経営しながら3人の子どもを育てていらっしゃる弘中明彦さんは、7年ほど前、30歳の頃に突発性難聴で右耳の聞こえが悪くなりました。原因は不明だと言います。

当時は、1人目の子どもが生まれたばかり。
片耳難聴による子育ての困難はあったのでしょうか。詳しくお話を伺いました。

―― まず、弘中さんの聞こえの程度について教えてください。

右耳の難聴です。高音域や低音域はまったく聞こえないわけではないのですが、人間の声の高さはほぼ聞き取れません。

―― 突発性難聴を発症したことで、子育てに対して何か不安は感じましたか?

いえ、片耳が聞こえさえすれば問題ないと思っていましたね。正直、発症時は長女が生まれたばかりということもあり、片耳難聴のことを気にする余裕がありませんでした。子どもの泣き声も聞こえましたし。ただ、難聴によって、子どもの声が聞こえなくなることがあったら寂しい、とは思っていました。

―― 現在は3人のお子様がいらっしゃいますが、子育てをする上で困ることはあるでしょうか?

補充現象なのか、子どもの見ているテレビの音や聴いている音楽が頭に響くことが多く、「ボリュームを下げて」とお願いすることがあります。また、同時に話されると聞き取りづらいこともあります。

ちなみに、自分はガヤガヤした場所が苦手ですが、子どもと遊びに行くのは公園などが多いのであまり気になりません。Uターンをして山口県に住んでおり、人混みが少ないんですよね。地方にいることで救われている部分があるのかもしれません。

―― お子様が3人いらっしゃると、話を聞き取りやすい位置を確保するのも大変ではないですか?

家族でいるときに、座る位置を気にしたことはあまりないです。居酒屋のようなガヤガヤした場でない限り、どこに座っても身体をひねればなんとかなるので。子どもに「パパはこっちに座りたい」と言ったことは、今までないかもしれません。

そう考えると、自分が苦手な場面と子育ての場面は、あまり重ならない印象があります。

―― お子様には、ご自身の片耳難聴のことを伝えていますか?

はっきりとは伝えていません。「よく聞き返してくるな」とは思っているかもしれませんが、片耳難聴だと認識する一歩手前だと思います。

現在、長女は8歳、次女は6歳、長男は3歳です。次女と長男はまだ幼いですが、長女には伝えれば理解できると思います。どこかのタイミングで、もし必要があれば伝えるかもしれません。

家族以外に対しても同じスタンスで、伝えないと困るかどうか必要性のみを考えて、伝えるか伝えないかを決めています。必要な場面では、誰にでもカジュアルに伝えます。人は皆、周りに対して無関心なので、自分も気にしすぎる必要はないかなと思っています。

おわりに

不便な場面はありながらも、「子育ては問題なくできる」という力強いメッセージが多数寄せられたことが印象的でした。

この記事が、今まさに子育て中の方、そして今後子育てを予定している方のヒントとなりましたら幸いです。
感想や質問などありましたら、お便りフォームへお寄せください。

また、他の人と実際にお話してみたいときは「片耳難聴Cafe」へ、専門家からのアドバイスが欲しいときは「個別相談」を、ご活用ください!

最後に、アンケートおよびインタビューにご協力くださった皆様、ありがとうございました。

アンケートにご協力いただいた方々
・回答者:17名(母親14名、父親3名)
・年代:20代〜60代以上
・発症時期:先天性・幼少期・成人後まで
・難聴の程度:中等度〜重度が中心

片耳難聴とは?

  • 片耳は正常聴力。もう一方の耳に、軽度~重度(聞こえにくい~聞こえない)の難聴がある状態。
  • 医学的診断名では「一側性難聴」「一側聾/片側聾」。きこいろでは、当事者以外にも馴染みやすい総称として「片耳難聴」を使用。
  • 36万人以上の片耳難聴の方が日本にはいると推定(きこいろ調べ)

きこいろとは?

  • 2019年発足、日本で初めての片耳難聴の当事者コミュニティ。
  • 「聞こえ方は、いろいろ」略して「きこいろ」。
  • 専門家や当事者で運営する、全国組織の任意団体(ボランティアで運営) 。
  • 片耳難聴に関する情報発信、交流会や勉強会、個別相談、啓発活動などを行っている。

著者紹介