【連載】片耳難聴と学校生活(Pt.4 部活・サークル)

2021年10月31日 − Written by きこいろ編集部

当事者50名からのエピソードをまとめたコラム連載企画。

Part1「先生に伝える?」
Part2「友達に伝える?」
Part3「授業で困ることとその工夫」
に続き、今回は「部活・サークルで困ることと工夫の仕方」についてです。

10代の現役学生~当時の学生時代を思い出して回答して下さった50代までと、幅広い年代の方々に実体験をお寄せいただきました。

体験やご意見は様々です。一例として参考までにお読みください!

あまり困らなかった

部活・サークルでは、片耳難聴によって困ることは「あまりなかった」と答えた人が3割でした。

授業に比べて、時間が短いことや自分で選べるためか、前回のアンケートの「授業で困らなかった」という回答数よりも「部活・サークルで困らなかった」という回答数が多いのが特徴的でした。

文 化 部

  • 美術部で少人数だったので、部活で困った経験はなかった。(20~30代.おそらく、おたふく風邪)
  • 手話サークルなので、特に困る事はなかったと思う。(大学・専門学生.子どもの頃からの片耳難聴)
  • 中学時代は合唱部で、みんな声が大きかったためそこまで不便は無かった。
    高校時代の茶道部は、小さな部屋であったため聞こえた。また、基本的にお茶をいただくときは話さないため困らなかった。(大学・専門学生.就学前からの右耳難聴)
  • 吹奏楽部だったが、人数も多くなく、みんな仲が良かったからか困ることはなかった。(先天性の小耳症・外耳道閉鎖症による片耳難聴)

運 動 部

  • 皆に片耳が聞こえないことを伝えていたので、特に困らなかった。(40~50代.混合性難聴)
  • 部活は、常に大声で話したり指示だったので困ったことは特になかった。(20~30代.先天性の片耳難聴)
  • 中学は陸上部で、個人競技だからか特に不便はなかった。
    高校のソフトボール部も、チームプレーだが声の特徴を覚えておけば、誰が言っているかはわかりました。(30~40代.生まれつきの左耳聾)
  • 他の運動部と少し離れたところで活動しており、周りがうるさすぎるということもなく、特に不自由感じなかった。(10~20代.生まれつきの左耳聾)

一方、部活やサークルによって困る場面は、運動部系・文化部系共に以下のようなものがあげられました。

困った場面

文 化 部

  • 吹奏楽部でチューバをやっているが、楽器のベルの向きによっては音が全く聞こえない(補足:ベルの向きは、左向きと右向きの両方がある)。
    また、皆で練習している時は音でうるさく、声をかけられても気づけないことがあり「ごめん、集中してた笑」と誤魔化す。(高校生.先天性の片耳難聴)
  • 合唱部で、先輩の指導の声が聞こえない時がある。「すいません!ぼーっとしてました!」と言うか、常に楽譜を見ている振りをする。
    また全体練習の時に、自分の聞こえない側で歌っている人の声が聞こえない。(大学・専門学生.10歳時にムンプス難聴)
  • 演劇部で、みんな声が大きく普段は特に困ることはなかったが、舞台裏で小声で話す時は、時々聞き取りにくかった。(40~50代. 先天性の右耳難聴)

運 動 部

  • バドミントンで、コートにそれぞれ別れて練習する時に相手の声が聞こえず、何度も聞き返して相手に嫌がられた。(40~50代.12歳時に慢性中耳炎)
  • 剣道部で防具をつけると、片耳難聴もあるし、さらに聞き取りにくい時があった。アドバイスがほとんど聞こえていなかったと思われる。(40~50代.先天性の片耳難聴)
  • 他校と合同練習や試合するときは、話すときに位置を変わろうとするのとか変に思われたかも。自分の学校の先輩後輩や先生には伝えていたが、他のチームだと言うタイミングを逃して伝えてないままになってしまうため。(中学生.原因不明の右耳聾)

そのような不便を減らすための工夫には、次のようなケースがありました。

工夫や対策

文 化 部

  • アカペラ合唱をやっていたので、聞こえる側の立ち位置で歌わせてもらうようにお願いした。(20~30代.9歳時に原因不明の突発性難聴)
  • 個人練習の後に、部長から「合奏するよ」と声をかけられるタイミングがあるため、意識して指示を出す人(部長)の方を見たり、周りの様子を伺う(高校生.11歳でムンプス難聴)
  • 聞こえない側に相手がいる時は、補聴器をつけたり、聞き返したり、反対側に座りたいなと言って席を交換してもらったりした。(20代~30代. ムンプス難聴)

運 動 部

  • 空手の組手試合で、メンホー(頭部防具)を被ると審判の声が聞こえにくく、視界も狭まるので方向感覚がなくなる。試合の途中で開始位置がわからなくならないように、最初にコートに立った時に見える景色(体育館の壁の模様など)を目で覚えておいて目印にした。(40~50代.先天性の片耳難聴) 
  • サッカーで、足音で方向を判断できないし、気配の音が聞こえないことも多いので、試合中いつのまにか後ろ(特に聞こえない側の左後ろ)に人がいることがよくある。
    視覚を生かして、視野を広く持つように心掛けている。(大学・専門学生.6歳で判明、左耳聾)
  • 試合中、コート外から監督に名前を呼ばれても気がつかない。チームメイトが代わりに呼んでくれた。(20代~30代.先天性の右耳感音性難聴)

今回のアンケート結果の全体的な印象としては、
運動部も文化部も、チームや大勢で取り組むものには、難しさを感じたことがある人が多いようでした。

  • 部活は卓球をやっていた。特に意識してたわけではないけれど、やはり個人競技を選んでしまう。(40~50代. 原因不明の片耳難聴)
  • バスケットボールとバレーボール部に参加したが、どこから声をかけられているのか、音の方向が分からないため、チームスポーツは難しなと感じた。(40~50代.5歳時にムンプス難聴)

集団で取り組む部活でも、音楽関連の吹奏楽や合唱などでは、座席・立ち位置を聞こえる側に変えてもらうようお願いしているケースが複数ありました。

ただ、スポーツで動線がプレー中に常に変更されるものは、聞こえる場所をいつも確保するのは出来なくなります。難聴側から聞く場面が出てくるなどすると、チームメイトやコーチとのコミュニケーションが取りづらく、プレーに影響したという経験が多々あるようです。

個人競技を選ぶというのも、自分にとってより力を発揮しやすい環境を選ぶという選択の1つかも知れません。

また、以前の「スポーツ好きの片耳難聴Cafe(交流会)」で紹介した、ジェスチャーやランプ、旗、振動など音以外での工夫も参考にしてみてください。

サークルや部活の懇親会

大学生以上となると、部活やサークルの中で懇親のための「飲み会」も増えてきます。

雑音下での聞き取りが難しい片耳難聴には、飲み会のようなザワザワした空間は苦手な場面です。中には、そこで片耳難聴の困り感を改めて自覚したという人もいます。

  • 飲み会の時に、何を言ってるのか聞こえなくて憂鬱だった。理由をつけて行かなかった。(20~30代.17歳時にメニエール病)
  • 飲み会の席等は、早めに入ってベストポジションを確保するようにしていた。(20~30代)

以前の当事者インタビューでも、「下駄箱やトイレ行って時間調整して最後に入って、聞こえやすい端の席をキープ」「飲み会で聞こえる席をキープできなかった場合、知ってる人に聞こえない側にいてもらう」と工夫されているという方がいました。

部活の練習やプレーだけでなく、コミュニケーションも大事な要素。
皆で楽しめる工夫ができたらいいなと思います。

今回のアンケート結果、皆さんはいかがでしたか。

一部の部活・サークル活動の中で、片耳難聴がハードルになっていると感じる方もいることが分かりました。

「難しいから出来な」ではなく、まずは「やりたい!」という思いを実現できるように「どうしたらやれるか」を考えていけるといいなと思います。

学校の先生や指導者・家族・関わる周りの方には、ぜひ子ども達と相談しながら、個々に合った協力をお願いしたいと思います。(参考:「周りの方向けのリーフレット」

それでも当事者にとっては、片耳難聴ゆえのハードルを感じることもあるかもしれません。
そんなときは、交流会などで一緒に考えられたらと思います。(詳細:片耳難聴Cafe)

たとえ、うまく軌道に乗らなかったとしても、自分自身で考え、選択し、チャレンジしたことが将来の糧になっていくはず。学生の皆さん、応援しています!

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