一般的には、片方の耳が聞こえていれば、
ことばの発達や学業に大きな影響はないと報告されています。
ただ、学校という様々な音に溢れた場では聞こえにくさを感じる場面はあり、聞こえやすい座席位置の調整などが推奨されています。
これまでも日常生活全般での困り事や、
そのための工夫について紹介してきましたが、
今回のアンケートコラムでは、
さらに具体的に「学校生活」をテーマに皆さんの多様な体験談をお届けします。
10代の現役学生~当時の学生時代を思い出して回答して下さった50代までと、
幅広い年代の方々に実体験をお寄せいただきました(55名)。
体験やご意見は様々です。一例としてご参考までにお読みください!

第1回のテーマは「先生に伝える?」
片耳難聴は、周りからは一見して分からないため
2009年の20~40代135名への調査では、多くの人が周りの協力を求めるときなど「必要なときに伝えている」という結果がありました。
今回のアンケートでは、「学校で先生と関わるとき」にフォーカスした設問を設けました。
学校の先生に伝える?伝えない?
理由、方法、先生の反応は?
お寄せいただいた55名のうち、先生に伝えた/伝えていないの割合では
一度は伝えたことがある人は 76%
全く伝えたことがない人は 24% という結果でした。
1. 伝えていない
先生に伝えていないという人もいました。理由には、以下のような回答がありました。
そこまで気にしていなかったので、伝えていなかった。
(20~30代. 17歳のときメニエール病で左耳難聴)
授業では不便を感じておらず、伝えていなかった。
(20~30代. 生まれつき小耳症で片耳難聴)- 医者から特に何も言われなかったので、伝えていない。
診断書は提出したと思う。
(40~50代. 10歳で片耳難聴と分かったが原因は不明) - 高校からは面倒で伝えてなかった。
小中学校までは、聴力検査でひっかかるため主に保健室の先生と担任に伝えていた。
一部の先生は、就学のことを気にしていたが、
気にしてほしいのはそこじゃない(笑)と思って半ば諦めていた。
(20代~30代. 生まれつきの片耳難聴)
2. 伝えた
以下のように、先生に片耳難聴を伝えている人もいます。
伝えて、協力を得られた
- クラス替えした初めの頃に「左耳が聞こえないので席は固定にして欲しい」と伝えていた。
先生は、配慮してくれる場合が多かった。
(20~30代. 生まれつき形成不全で左耳難聴) - 隣の友達と話しやすいように、席は聞こえる側にしたかったが、
席替えを皆と一緒にしたい気持ちはあったので、
「聞こえやすい側の端の列の中で、席替えしたい」と伝えていた。
その一列だけのクジ引きを作って貰ったりした。
(20代~30代. 子どもの頃からの右耳聾) - クラス替えした直後は、出席番号順で聞こえない側の席になることが多い。
片耳難聴のことを伝えて、早めに席替えをして貰えるようにした。
(10代.子どもの頃からの片耳難聴) - 「左耳が聞こえないので、席をできるだけ教室の左側にしてほしい」と伝えていた。
当時、男女で対になって座るのが基本で
「(自分含む)女子は左側」と対応してくれた先生がほとんどだった。
(40~50代. 生まれつき左耳聾) - 聞き逃しや聞き間違えがあった時に、
同じことを教えてほしいから伝えていた。
小学生の時は、先生という立場に対し緊張感があり、
連絡帳で左耳が聞こえない事と席替えは前が良い事を伝えた。
(20代~30代. 7歳のときに左耳難聴) - 入学説明会時に、学年主任と校医に伝えた。
学年主任は、入学直後に不安なことはないかと聞いてくれた。
担任には年度初めに「右耳が聞こえないから席を右側にしてほしい」と伝えていた。
担任は、どう接すればいいかを積極的に聞いてくれた。
(高校生. 11歳でムンプス難聴) - 学校調査表に「左耳難聴である為、席を左にしてほしい」と書いた。
口頭で担任にも同様に伝えた。
(大学/専門学生. 5歳で左耳聾)
学校の先生も、片耳難聴がどのようなものかご存知ない方も多いため、
具体的な希望を伝えることで対応してもらったという回答でした。
伝える手段も、口頭や連絡帳、調査票など様々でした。

また、配慮は不要という希望を伝える人もいました。
- (大学/専門学生. 3歳でムンプス難聴で左耳聾)
担任には年度はじめに、配慮は不要と伝えた。
伝えたけれど、期待するような対応を得られなかったと感じている人もいます。
伝えたが、あまり協力を得られなかった
- 担任には直接伝えたが、全く覚えていなさそう。
(高校生. 先天性の右耳聾) - 高校までは先生に伝えていましたが、特に配慮はなかった。
「つんぼ(耳が聞こえない状態を差別的に表現した言葉)」「ボーッとしてる」と言われていた。
何より卒業の寄せ書きに書かれた時もあった。
(40~50代. 8歳で右耳聾)

自分で説明するのが難しい場合は、
本人と相談して、親御さんが代わって説明するのも良いかもしれません。
親から伝えた
- 小学校までは、親から先生に伝えていたらしい。
中学校以降は、眼鏡をかけ始めて前側の席になり伝えなくなった。
(20~30代. 4~5歳で三種混合ワクチン副反応で右耳聾) - 親から伝わっていた。
自分でも、席替えの際に片耳難聴を理由に希望を出して聞こえやすい側を定位置にして貰った。
(40代~50代. 就学前に片耳難聴) - 高校までは担任の先生にのみ両親から、もしくは自分で伝えていた。
特別な配慮はいらないと思っていたので、
音の方向がわかりにくいこと、左側からの声掛けは聞こえにくいことのみ伝えていた。
(20~30代. ムンプス難聴) - 新学期始まってすぐの懇談や家庭訪問で、親が伝えていた。
(40~50代. 幼稚園で原因不明の片耳難聴)
学校では、健康診断の項目として聴力検査が定められており、校医や学級担任が実施します。
そのときに伝えている人もいます。

聴力検査で伝えた
- 改まって先生に伝えることはしなかったが、
健康診断の聴力検査でわかるので間接的に伝わってた気がする。
(20~30代. 5歳でムンプス難聴) - 聞こえない側の検査をするのは時間の無駄なので「左耳は聞こえない」とはじめに申告している。
(20~30代. 先天性の左耳聾) - 検査の度「片耳が聞こえない」と説明するのが面倒だった。
(20~30代. 先天性の右耳難聴)
3.聴力検査にまつわるご意見
聴力検査については、いろいろ体験が寄せられています。
- 再検査になるのが、特別感があって少しうれしかった。
(40~50代. 就学前から片耳難聴) - 担当する先生が、片耳だけ数値が悪いことに焦っているのが面白かった。
(20~30代. 17歳のときメニエール病で左耳難聴) - 「いま左側を鳴らしてるよ。聞こない?」と言われ
「左耳は聞こえないんで」と言ったら「そんなはずない」と言われた。
どういうことよ、と笑えた。
その後も何度か音を出したそうだが、私がボタンを押さないため
「聞こえないんだぁ」と納得されていた。
(20代~30代. 7歳のときに左耳難聴)
聴力検査で、苦い思いをした方もいました。
「真面目にやってください!」と中学のとき言われて傷ついた。
(高校生. 先天性の右耳聾)- 検査を担当する教師に片耳が聴こえないことが伝わっていなかったため
「あれ、今の聴こえなかった?」と、
片耳難聴を伝えていない他の同級生がいる中で言われるのが苦痛だった。
(大学/専門学生. 13歳で右耳突発性難聴) - 学校の聴力検査で片耳難聴が分かり、
先生から深刻な顔で「異常あり」と書かれた書類を渡されて
「なにか大変なことをしてしまった」と罪悪感になった。
(大学/専門学生. 11歳で右耳聾)
以前、インタビューしたプロサッカー選手の町田選手も、
「再検査で居残りになって、待っている間に見られるのがすごく嫌だった」とお話されていました。
学校や先生方には、
生徒の気持ちの面にも少し配慮していただけたらなと思います。

以上のように、今回のお寄せ頂いた皆さんの「学生が先生に片耳難聴を伝える」体験談からは、
伝える人は、席替えのときに聞こえやすい場所にしてもらうためという理由や、
健康診断で行う聴覚検査を通して伝わることとなる人がいました。
自分で伝えるだけでなく、年齢などに応じて親御さんからという人もいました。
伝えない人は、特に必要性を感じていないためという回答となりました。
聞こえも、おかれた環境も人それぞれ。
学生の皆さん一人一人に合ったヒントがみつかりますように!
今後の掲載予定
「片耳難聴と学校生活」シリーズとして、数回に分けて連載します。
- 学校の友達に伝える?
- 授業中に困ることや工夫
- 部活や課外活動で困ることや工夫
- ※片耳難聴とは:
- 片方の聴力は正常。もう片方の耳が、軽度~重度の難聴(聞こえにくい/聞こえない)がある状態(一側性難聴/一側聾)。難聴だけでなく、めまい・耳鳴りの有無、その他の個人・環境の状況によっても困りごとや必要な対応はそれぞれ。
※エピソード募集方法: - Googleアンケートフォームで質問を作成。TwitterきこいろアカウントとFacebookの会員メンバー限定グループを利用し募集。難聴の程度や症状は、自己申告に基づく。文体や表記の統一・内容に差し支えない範囲で説明文の追加等を行った。同様の回答は、文量の都合上カットした。(2020/10/20~11/10)
今後もエピソードがありましたらお寄せください!
・【本人用】アンケートフォーム
・【周囲の人用】アンケートフォーム

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