突発性難聴について

Written by 岡野 由実

私は、中学2年生の時に左耳の片耳難聴になりました。その時の診断名は「突発性難聴」。
この記事では、「突発性難聴」について、私の体験談とともにお伝えします。

目次

  1. 概要
  2. 発症頻度
  3. 症状(難聴、めまい、耳鳴りなど)
  4. 原因・予防
  5. 診断方法
  6. 治療方法
  7. 予後
  8. 周りの方・ご本人へのメッセージ

1.概要

突発性難聴とは、ある日、突然に聞こえにくくなる疾患のことを言います。

通常は、左右どちらかの耳に発症し、ごく稀に両耳に発症する場合があります。
後天的に発症する片耳難聴の原因としては、最も多いと報告されています文献1)

「突発性難聴」という名前の病気があるようなイメージを抱くのですが、
実は「突然に発症する “感音難聴” のうち、原因が明確でないものの総称が突発性難聴です。

以前、とある医師の講演会で「難聴の原因を解明して、いつか突発性難聴という診断名は無くしていかないといけない」というお話を聞いたことがあります。


  • 感音難聴(かんおんなんちょう)とは
    難聴は、どこに原因があるかによって大きく3つの難聴に分類されている。
    感音難聴は、内耳か蝸牛神経か脳のどこかに障害が起きたことが原因の難聴。
    詳細はこちら:耳・聞こえの仕組み

2.発症頻度

突発性難聴の頻度は、人口10万人あたり30人程度と報告されています文献2)
毎年、全国で3万5千人もの人が突発性難聴の診断を受けており文献2)、近年は増加傾向にあるとされています。

男女差や左右差はなく、特に働き世代の40~60歳代に多いと言われています。
子ども~高齢者まで、どんな年代でも起こり得る疾患です。

芸能人が突発性難聴を発症し、休養するニュースに取り上げられているのを目にしたこともあるのではないかと思います。
誰でも突然発症し得る、身近な疾患です。

突発性難聴を発症した主な著名人

  • 浜崎あゆみさん(2000年頃)
  • 山口一郎さん(2010年頃)
  • スガシカオさん(2011年頃)
  • 堂本剛さん(2017年頃)
  • 八乙女光さん(2021年頃)
  • 皆藤愛子さん(2021年頃)
  • manakaさん(2022年頃)

参考:片耳難聴と音楽

3.症状

●難聴

何の前触れもなく発症する難聴が、主症状です。
発症したら一度きりで、難聴が進行したり再発しないことが特徴です。

難聴の程度は軽度~重度まで様々で、初診時の聴力によって4つのGradeに分類されています文献3)

  • Grade1  40dB未満(小さな音が聞こえにくい)
  • Grade2  40dB以上60dB未満
  • Grade3  60dB以上90dB未満
  • Grade4  90dB以上(大きな音でも聞こえない)

詳細はこちら:オージオグラムの読み方

●耳鳴り、めまい

難聴以外にも、「めまい」や「耳鳴り」を伴う場合も多くあります。
耳鳴りは、改善が難しいことが多いですが、めまいを繰り返すことは無いと言われています。

・耳鳴りとは

「ゴー」という低い音、「キーン」という高い音、色々な高さの音が混ざったような音など。
脳が、難聴で聞こえなくなった音を補おうと過剰に興奮した結果、作り出された音と考えられています。
詳細はこちら:難聴に伴う症状

・めまいとは

目が回る様な感覚がある症状。吐気・嘔吐を伴うこともあります。
突発性難聴は、「内耳」というバランス感覚を司る器官に原因があるため起こります。

詳細はこちら:片耳難聴とめまい

体験エピソード

私の場合、飛行機に乗った時のような「耳のつまり感」がなかなか抜けないな…という感覚があり、「あれ?聞こえないかも」ということに気づきました。

発症した時には、ほぼ聞こえない状態のGrade4でした。
またその時は「なんとなくフラフラする~」と言っていたような気がしますが、今はめまいはありません。

耳鳴りとは、ずっとお付き合いをしています。
慣れるまでは、聞こえない方の左耳が重いような感覚があり、ずっと耳元でセミが鳴いているような冷蔵庫の機械音のような「シャーーー!!」という音がうるさくて、「耳鳴りの音がなくなるなら、全く聞こえない方がマシ」と、思ったこともありました。

4.原因・予防法

原因は、まだ明らかになっていませんが、以下のような説が考えられています。

  • 耳の奥の方にある内耳(ないじ)という場所の血流障害
  • ウイルス感染

ストレスや過労、睡眠不足になると、この血流障害やウイルス感染になりやすくなるのではないかと考えられており、一般的には「突発性難聴は、ストレスが原因でなりやすい」と言われています。

突発性難聴の予防法があるわけではありませんが、
「ストレスをため込まない、無理をしない」ということが、どんな疾患にとっても大切なことなのかもしれません。

4.診断方法

突発性難聴には、以下のような診断基準があり(文献4
診断のために、いくつかの検査を行います。

●検査方法

  • 問診で症状を確認
  • 各種の聴力検査を実施し、難聴の程度や症状を把握
  • 他の原因の可能性を鑑別するため、画像診断 など

  • 診断基準(厚生労働省特定疾患急性高度難聴調査研究班,2012)
  • <主症状>
  • 1.突然の発症
  • 2.高度感音難聴
  • 3.原因不明
  • <参考事項>
  • 1.難聴
  • (1)即時的な難聴、または朝、目が覚めて気づくような難聴が多いが、数日をかけて悪化する例もある。
  • (2)難聴の改善・悪化の繰り返しはない。
  • (3)一側性の場合が多いが、両側性に同時罹患する例もある。
  • 2.耳鳴
  •   難聴の発生と前後して、耳鳴を生ずることがある
  • 3.めまい
  •   難聴の発症と前後してめまい、および吐気・嘔吐を伴うことがあるが、めまい発作を繰り返すことはない
  • 4.第8脳神経以外に顕著な神経症状を伴うことはない
  • 診断基準:主症状を全事項をみたすもの

体験エピソード

私も診断のために、通院のたびに聴力検査を行い、CTやMRIなどの画像診断も受けました。

しかし、最初に受診した病院で、めまいの症状があることからメニエール病と誤診され、メニエール病の治療を受けていました。1ヶ月ほど内服による治療を受けた後に改善がみられないため、大きい病院へ紹介となりました。
20年以上も前の話なので、今ほど突発性難聴について理解も広まっていなかったのかもしれません。

大きい病院で2ヶ月近く通院した結果、「原因は分かりません、治りません。突発性難聴でしょう」と告げられたことを覚えています。その頃には、通院自体が面倒(苦笑)になっていたので、「治らない」と言われてショックだったという記憶はあまりありません。

6.治療方法

突発性難聴の治療は、発症から早ければ早いほど効果があると言われています。
発症後1週間以内に、適切な治療を受けることが重要です。
治療開始が遅れれば遅れるほど、治療効果は下がってしまうことが知られています。

ただし、特効薬があるわけではなく、治療で改善がみられない場合もあります。

  1. 初回治療
    内服や点滴によるステロイド投与が行われます。
    通院や入院により、一定期間、継続して定期的な投与が必要です。
  2. 十分に回復しない場合
    耳の中にステロイドを注入する「ステロイド鼓室内注入療法」が行われることがあります。
  3. さらに効果がみられない場合
    高圧酸素療法(ただし診断3ヶ月以内)が行われることもあります。

原因が分からないため、上記のような治療をしても、必ず効果がみられるという訳ではありません。

また、「鍼灸」や「漢方」、「星状神経節ブロック」などの治療法も目にすることがありますが、血流や全身状態の改善、リラクゼーションへの効果は期待できても、
難聴に直接的に効果のある治療という訳ではありません。

体験エピソード

私の場合、突発性難聴と診断されたときには、すでに発症から3ヶ月近く経過していたため、標準的な突発性難聴の治療を受けたことがありません。

7.予後

3分の1が完治し、3分の1が回復しても難聴が残り、残りの3分の1は治らないと言われています。
ただし、あくまで早期に治療を開始した場合の予後です。

下記の場合は、予後不良(改善が難しい)ということが知られています文献5)

  • 発症後、2週間以上経過した場合
  • 発症した時の難聴程度(Grade)が高い場合
  • めまいを伴う場合
  • 発症年齢が高齢者や10歳以下の子供の場合

体験エピソード

私の場合は、メニエール病に誤診されたことにより治療開始が遅れたこともありますが、
発症時の聴力レベルが100dB以上のGrade4であったこと、めまいを伴う症状があったこと、10歳代であったことから、予後不良の条件を満たしており、
おそらく早期に治療を開始しても、聴力の改善は難しかったかもしれません。

8.周りの方へ・ご本人へのメッセージ

周りの方へ

もし、身近に耳の違和感を訴える人がいたら

片方の耳が聞こえている分、「聞こえづらさ」というのをすぐには感じず、様子を見ればいいと思う方もいるかもしれません。
また、周りに迷惑がかかるから…と休みにくかったり、自分のことを後回しにしてしまう方もいます。

耳にいつもと違う感じがあれば、すぐに耳鼻咽喉科を受診することが大切です。「早く病院に行った方がいい!」と、強く背中を押してあげてください。

もし、身近に突発性難聴になった方がいたら

「片耳が聞こえなくなった人」として特別扱いするのではなく、これまでと変わらないお付き合いをしてもらいたいと思っています。

どうしたらいいだろう?と困ったときは、対応のヒントを示したリーフレットや、両耳が聞こえる人・周りの方も参加できる勉強会なども参考にしてみてください。

片耳難聴のご本人へ

私は、この片耳難聴とはすでに20年以上のお付き合いとなりました。
最初は聞こえの違和感がありましたが、今ではこの耳との生活に慣れてしまいました。

片耳だけとは言え、発症間もない方にとっては、聞こえに強い違和感があり、辛い体験ではないかと思います。耳鳴りやめまいがあれば尚更です。喪失感を感じられる方もいると思います。

この記事と私の体験が、突発性難聴により片耳難聴になった読者の皆さんの、少しでもヒントになれば嬉しいです。

きこいろに掲載している「聞こえる耳を大切にするために」といった情報や、自分以外の当事者と話せる、片耳難聴Cafe(交流会)も活用ください。

出典

  • 1)Usami, SI., Kitoh, R., Moteki, H., et al. :Ethology of single-sided deafness and asymmetrical hearing loss. Acta Oto-laryngologica, 137(sup565): S2-S7, 2017
  • 2)中島 務,冨永光雄,イエーダマリアイシダ,他: 2001年発症の突発性難聴全国疫学調査 ―聴力予後に及ぼす因子の検討. Audiology Japan, 47(2): 109-118, 2004
  • 3)中島 務,植田広海,三澤逸人,他: 厚生省急性高度難聴調査研究班による突発性難聴の重症度基準による全国疫学調査結果の解析. Audiology Japan, 43(2): 98-103, 2000
  • 4)喜多村 健: 突発性難聴治療のEBM. 日本耳鼻咽喉科学会会報, 117(1): 62-63, 2014
  • 5)佐藤美奈子,松永達雄,神崎 仁,他: 突発性難聴の重症度分類と予後との関係.日本耳鼻咽喉科学会会報, 104(3):192-197, 2001

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